今日のおじさん、なに食べました? (仮)

妻の料理と、おじさんの毎日の記録です。ほんのり工学テイスト。

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煮物の2つのステップ~材料の「煮え」と「染み」
【今日の料理】 2011/5/31 夕食
 今日で,5月も終わりです.1年間の育児休業も,もうすぐに4ヶ月経ってしまいます.生活リズムが固定されていく中で,日々の生活を淡々とこなすだけになりつつあります.「このままではダメなんじゃない?」ということで,妻と少しケンカをしてしまいました.
 考えてみると,娘が生まれた当初は,娘の世話と家事だけで,手一杯でした.生活にも慣れ,ケンカをするだけのエネルギーが余るようになった,ということかもしれません.余ったエネルギーを上手に活用しながら,当初の新鮮さを忘れずに,有意義な育児休業期間を,過ごしたいものです.


★米飯

★みそ汁,なす

★ブリ照り焼き
 見切り品:3切れ=298円のブリです.しょうゆ・みりん・酒・砂糖のタレに15分ほど漬け込んだ後,ふっ素樹脂のフライパンで焼きました.ふっ素樹脂だと,くっつかないので,私の腕でも崩さずに焼けました.レシピは[1].
[1]浅田峰子;基本の台所,グラフ社,(2002)

★五目豆
 我が家の定番です(妻は,この料理を食べますが,あまり好まないようです.).具は,大豆・昆布・しいたけ・人参・大根・こんにゃくです.圧力鍋,加圧1分です.しかし,最近圧力鍋の調子が悪く,うまく加圧できませんでした.パッキンが,劣化しているのかもしれません.

★トマト

★おかか昆布


【今日の料理工学】 煮物の2つのステップ~材料の「煮え」と「染み」
 前回まで,味の染みの速さを決定付けるパラメータである「拡散係数」について,考察してきました.これまでの結果を,以下にまとめます.
 ・拡散係数が大きいほど,染みる速度が速い.
 ・拡散係数が2倍になると,染みる速度は√2倍になる.
 ・拡散係数は,温度により増加するが,その増加度合いは小さい(20℃につき約1.1倍).
 ・拡散係数は,調味料の分子量に,おおむね反比例する.

 ところで,調味料が染みる速度は,材料によっても変化します.また,同じ材料でも,煮え具合(火の通り具合)によって,調味料の染みる速度が変わります.

 今回は,煮え具合によって,調味料の染みる速度がどの程度変わるか,実験してみました.

 今回用いた試料は,次の通りです.
 ・試料の種類:大根
 ・試料の形状:イチョウ切り
  ・半径:約40mm
  ・厚さ:約15mm

 この試料をa~fの6個用意しました.そして,沸騰した湯の中に入れて,所定時間だけゆでました.ゆでる時間は,次の通りとしました.
 ・試料a:0分(ゆでない)
 ・試料b:3分
 ・試料c:5分
 ・試料d:10分
 ・試料e:20分
 ・試料f:30分

 ゆでた後,しょうゆ:水=1:4で混合した調味液に,30分間漬けました.この後,次のようにして,調味液の染み具合を比較しました.
 ・外観(表面および切断面)…目視観察による
 ・調味液の染みの深さ…定規(最小目盛=1mm)により測定
 ・味,食感…食べる人=36歳男性,今日もヒマ人


 さて,実験結果です.
 調理後の試料の外観を,下図1に示します.試料aのみ,明らかに色が薄いです.しかし,その他の試料では,明らかな色の差異は見られません.
<図1>
z20110531z1.jpg
 試料を切断すると,図2のようでした.
<図2>
z20110531z2.jpg

 色の染みの深さの測定結果は,以下の通りでした.
 ・試料a(ゆでない):0.5mm
 ・試料b(ゆで時間3分):0.5mm
 ・試料c(ゆで時間5分):0.5mm
 ・試料d(ゆで時間10分):1mm
 ・試料e(ゆで時間20分):1mm
 ・試料f(ゆで時間30分):1mm
 色にグラデーションがかかっていることと,測定器が最小目盛1mmの定規ということで,あまり正確な測定はできませんでした.

 また,味と食感は,次の通りでした.
 ・試料a(ゆでない):味=薄い,食感=とても固い
 ・試料b(ゆで時間3分):味=薄い,食感=固い
 ・試料c(ゆで時間5分):味=やや濃い,食感=やや固い
 ・試料d(ゆで時間10分):味=濃い,食感=柔らかい
 ・試料e(ゆで時間20分):味=とても濃い,食感=とても柔らかい
 ・試料f(ゆで時間30分):味=とても濃い,食感=とても柔らかい

 以上の通り,得られた結果は,測定方法の問題もあり,かなりあいまいなものでした.しかし,全体として,次の傾向が見えます.
 ・長い時間煮た材料ほど,染みの深さが深い.
 ・ゆで時間10分以上では,染みの深さに,ほとんど変化がない.

 この結果は,次のように説明できると思います.
 ・長い時間ゆでるほど,材料が破壊されて,柔らかくなる.柔らかい材料ほど,調味料が染みやすい(拡散係数Dが大きくなる).
 ・ゆで時間10分程度で,大根の材料の破壊は,ほぼ終了する.このため,ゆで時間を10分より増しても,材料は,それ以上は柔らかくならない.よって,調味料の染みやすさは,変化しなくなる.


 今回の実験結果から,十分に加熱して柔らかくなった材料には,調味料が染みやすいことが分かりました.この性質は,例えば,「豚の角煮」や「煮豆(含め煮)」などで利用されます.私の場合,豚の角煮の調理は,次の手順で行っています.
)肉を湯でゆでて,十分に柔らかくする.
)別に用意したタレで,味が染みるまで煮る.

 手順は,圧力鍋を用いると,大幅に時間を短縮できます.一方,手順は,圧力鍋を使っても,ほとんど短縮できません.しかし,煮立った後に火から下ろして放置しても,味は染みていきますので,省エネは可能です.調理後すぐに食べるよりも,一晩置いて食べたほうが,味が染みて美味になるようです.

 煮物の調理の手順を,)材料を柔らかくするステップ,)味を染み込ませるステップ,と分けて考えてみると,もう一歩料理上手になれるかもしれません.


【今回の結論】
 材料を十分に加熱して柔らかくしておくと,調味料が染み込みやすくなります.

【バックナンバー】
煮物編・前の記事:味付けの順番
煮物編・次の記事:温度上昇と味の染み

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味付けの順序は「さしすせそ」~砂糖と塩の拡散係数
【今日の料理】 2011/5/30 夕食
 今日は,妻と娘(3.7ヶ月)を,お友達のところに,自動車で送りました.詳しい内容は,聞きませんでしたが,母親と乳児(3~5ヶ月)のペアが7組集まって,合コンのようなものを開催したそうです.乳児の男女比は,男:女=3:4とのことでした.女性陣は,さぞライバル心をあらわにしたことでしょう.
 娘には,気になった子がいたらしいので,どんな子か,聞いてみました(もちろん,妻には内緒です).アーウー言って要領を得ないのですが,どうも,「哺乳ビンでミルクをくれた人が良かったわ,ポッ」と,言っているようです.娘よ,それは,「お母さん」ですよ.いい加減,両親の顔を,覚えてほしいものです.


★米飯,黒米入り

★みそ汁,大根・人参・しめじ

★オーブン唐揚げ
 ニンニク・しょうが・しょうゆ・酒のタレに漬け込んだ鶏もも肉に,小麦粉と片栗粉をまぶして,オーブンで20分ほど焼きました.オーブンの温度設定が低め(180℃)だったためか,あまりきれいに色付かず,唐揚げぽさが半減してしまいました.でも,味は問題なしでした.大根おろしとポン酢で食べても,なかなかの味でした.
 妻のコメント:「おいしかったです.ただ,もう少し唐揚げ感があると,もっと良かったと思いますわ.期待が大きかっただけに,少し残念です.でも,いつもありがとう.」 心遣いが,泣かせますね. 

★きゅうり

★トマト


【今日の料理工学】 味付けの順序は「さしすせそ」~砂糖と塩の拡散係数
 前回は,味の染みの速さを決定付ける「拡散係数」に,温度が与える影響を考察しました.

 今回は,調味料の種類による,拡散係数の違いを,調べてみます.

 文献[1]によると,拡散係数は,分子量が大きい物質ほど,小さくなるとのことです.

[1]小竹;調理と塩の科学,ソルトサイエンスシンポジウム講演資料,(2010)
http://www.saltscience.or.jp/event/saltscience-simposium/simpo-index.htm
 
 文献[1]に掲載されたグラフのデータを拝借して,分子量と拡散係数の関係を図示した結果を,図1に示します.図1には,次の物質の,濃度1.0Mでの自己拡散係数(水溶液中を分子が拡散するときの拡散係数)が,示されています..(グラフから目視で数値を読み取ったため,不正確かもしれません.)
 ・食塩(Na+,Cl-)
 ・エタノール
 ・酢酸
 ・グリシン(アミノ酸の一種)
 ・β-アラニン(アミノ酸の一種)
 ・ショ糖(スクロース)
<図1>
z20110530z1.jpg
 図1から,自己拡散係数D[m^2/s]は,おおよそ次式1で近似できます(図中の赤線で示す).

<式1>
 D=44×10^-9/m
 ここで,m:物質の分子量

 つまり,拡散係数は,概ね,物質の分子量に反比例すると言えそうです.

 では,よく使う調味料の分子量は,どれくらいなのでしょうか.以下の物質について,調べてみました.
 ・ショ糖(スクロース) …砂糖の主成分;甘味の代表として
 ・塩化ナトリウム …塩の主成分;塩味の代表として
 ・酢酸 …酢に含まれる;酸味の代表として
 ・グルタミン酸 …味の素に含まれる;うま味の代表として
 ・カフェイン …コーヒーに含まれる;苦味の代表として
 ・カプサイシン …唐辛子に含まれる;辛味の代表として
 ・エタノール …酒に含まれる

 これらの分子式を,図2に示します.参考文献は,ウィキペディアの記載と,文献[2]です.
[2]武村ほか;マンガでわかる生化学,オーム社,(2009)
<図2>
z20110530z2.jpg
 ・塩化ナトリウム: Na+,Cl-
 ・カフェイン:C8 H10 N4 O 2
 ・カプサイシン:C18 H27 N O3

 分子量を計算した結果を,下図3に示します.
 ※カフェインやカプサイシンは,水には溶けにくいようですので,比較する意味がなかったかもしれません.
<図3>
z20110530z3.jpg
 この結果から,食塩とショ糖では,分子量に約10倍の差異があります.よって,式1から,拡散係数Dは,食塩のほうが,ショ糖よりも約10倍大きいと推定されます.また,前回述べた通り染みる速度∝√Dでした.したがって,食塩のほうが,ショ糖よりも約3倍速く染みると予測できます.

 さて,煮物で調味料を加える手順について,「さしすせそ」というものがあります[3].これは,
 ・さ:砂糖
 ・し:塩
 ・す:酢
 ・せ:しょうゆ(せうゆ)
 ・そ:みそ
の順で,調味料を入れるとよい,という,古くからの教えだそうです.

[3]雁屋ほか;美味しんぼ68巻,小学館,(1999)

 砂糖を先に,塩を後に,というのは,上述の「塩よりも砂糖は染みにくい」ことから説明できます.つまり,先に砂糖を入れ,しばらく後に塩を入れると,煮え終わる頃には,砂糖も塩も良い具合に染みている,ということでしょう.「砂糖は染みるまでに塩の約3倍かかる」ということを念頭におくと,さらに味付けがうまくいくかもしれません.

 しかし,酢・しょうゆ・みそを入れる順序については,拡散係数では説明できません.インターネット上の色々な記述を参照してみると,以下のような理由が,もっともらしく思えます.すなわち,酢・しょうゆ・みそは,香りが大事である,しかし,あまり長く煮ると,香りが飛んでしまう,ということです.
 また,酒は,さしすせその中には入っていませんが,最初に入れるのが良いようです.これは,素材の臭みをとったり,素材を柔らかくしたりする効果があるため,と説明されています.

(補足)
 さしすせその順番の根拠として,「最初に塩味をつけると,身がしまって他の味が入りにくくなる」という説があります[3].しかし,当方が調べてみた限り,この説を裏付けるような,有力な根拠は見つかりませんでした.ですので,ここでは,砂糖と塩の染みる速度の違いだけについて,言及することとしました.

(補足2)
 「味の素」(グルタミン酸ナトリウム)は,どのタイミングで入れるべきでしょうか?
 図3を見ると,グルタミン酸の分子量は,砂糖と塩の中間です.よって,染みやすさを考えると,砂糖と塩の間がよさそうに思われます.しかし,私の場合,最初から味の素(を含んだダシの素)で煮ることが多いような気がします.(さらに言えば,最初から,砂糖と塩としょうゆとダシを混ぜたもので煮ることが多い気がします.)

(補足3)2011/5/31
 昆布のうまみはグルタミン酸,かつおぶしのうまみはイノシン酸,とのことです[4].イノシン酸の分子量は,348ですので,ショ糖とほぼ同等です.したがって,かつお系のダシの素を最初に入れるのは,妥当な選択と思われます.

[4]ヤマキHP;かつお節・だし研究所
 http://www.yamaki.co.jp/laboratory/labo05.html

【今回の結論】
 砂糖は,塩よりも分子量が大きいため,染みるのに時間がかかります.
 このため,煮物では,砂糖を先に,塩を後に入れるのが良い,と言われることがあるようです.


【バックナンバー】
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煮物は冷めるときに味が染みる?~温度と染みる速度の関係
【今日の料理】 2011/5/29 夕食
 今日は日曜日.私は,お休みを頂き,ひとり大宮まで出かけてきました.「いい包丁」を探すのが,目的です.
 東急ハンズ,ロフト,そごう,高島屋と巡りましたが,どこも似たラインナップでした.なかなか,ピッタリの包丁が見つかりません.いよいよ,通信販売の出番かもしれません.できれば,現物を確認してから求めたいのですが.
 今日の夕食は,妻の料理です.毎度ながら,ありがとう,妻.


★米飯

★すまし汁,もやし・しめじ

★レタス豚肉卵炒め
 妻の「48の得意料理」のひとつ,「炒め物」が炸裂しました.オイスターソースと,味王(ウェイユー)で,味付け.オイスターソースが少ししか残っておらず,うっすらオイスター味です.

★お助け惣菜
・納豆,おかか入り
・韓国のり

【今日の料理工学】 煮物は冷めるときに味が染みる?~温度と染みる速度の関係
 前回は,「味の染み」を,拡散方程式によって,数値計算できるようにしました.この計算で,重要なパラメータが,拡散係数Dです.拡散係数が大きいほど,染みる速度は速くなります.


★実際の拡散係数の値は,どれくらい?
 実際の調理では,拡散係数は,どの程度の値をとるのでしょうか.前々回の実験結果を利用して,調べてみたいと思います.この実験では,以下の結果を得ています.
 ・温度20℃(室温):10分後の染み深さ≒1~2mm
 ・温度100℃(普通鍋):10分後の染み深さ≒3~4mm
 ・温度120℃(圧力鍋):10分後の染み深さ≒3~4mm

 数値計算手法を用いた計算結果が,上の実験結果と一致するように,拡散係数Dを試行錯誤で探しました.この際,以下のように,実験結果を数値化しました.(まあ,これくらいだろう,という近似です.)
 ・温度20℃:10分後に,深さ=2mmの位置で,濃度=調味液濃度の0.5倍
 ・温度100℃:10分後に,深さ=4mmの位置で,濃度=調味液濃度の0.5倍
 ・温度120℃:10分後に,深さ=4mmの位置で,濃度=調味液濃度の0.5倍

 この結果,拡散係数Dとして,以下の値が得られました.
 ・温度20℃:D=6×10^-9[m^2/s]
 ・温度100℃:D=25×10^-9[m^2/s]
 ・温度120℃:D=25×10^-9[m^2/s]
 温度20℃→120℃で,拡散係数は,約4倍になっています.拡散係数が4倍になると,任意の時間t[s]での,染みの深さは,2倍になります.つまり,時間t[s]における染みの深さは,√Dに比例すると考えられます.
 
 さて,拡散係数Dには,温度依存性があります.この温度依存性は,「アレニウスの式」で記述できるそうです[1].
[1]小竹;調理と塩の科学,ソルトサイエンスシンポジウム講演資料,(2010)
 http://www.saltscience.or.jp/event/saltscience-simposium/simpo-index.htm

 アレニウスの式は,「材料の煮え(材料の破壊)」の速度依存性のときにも,出てきました.これは,次式1で表されます.
<式1>
z20110529s1.jpg
 ここで,
 A:頻度因子(調味液と素材で決まる)
 Q:活性化エネルギ(調味液と素材で決まる)
 R:気体定数
 T:絶対温度[K]
 ※AとQには,それらしい名前がついていますが,単なる定数と考えたほうがよいかもしれません.

 式1の係数を求めるために,横軸に温度の逆数(1/T[K^-1]),縦軸に拡散係数Dの対数をとり,グラフを作成しました.結果を下図1に示します.
<図1>
z20110529z1.jpg
 この結果から,最小二乗近似によって,定数AとQ/Rが,次のように求められました.
 ・A=2.4×10^-6[m^2/s]
 ・Q/R=1700[K]

 では,拡散係数の温度依存性を調べてみます.温度Tのときの拡散係数をD,温度T+ΔTのときの拡散係数をD’とします.式1より,次式2を得ます.
<式2>
z20110529s2.jpg
 T=100[℃]=373[K],ΔT=20[℃]とすると,
 ln(D’/D)=1700[K]×20[K]÷(373[K])^2=0.244
 ∴D’/D=e^0.244=1.27≒1.3
 となり,拡散係数は,100℃→120℃で,1.3倍になります.そして,前述の通り,時間t[s]における染みの深さは,√Dに比例すると考えられます.したがって,染みの深さは,100℃→120℃で,√1.27≒1.1倍となります.

 このように,「味の染み」の速さを支配する拡散係数は,温度依存性があるものの,その依存性は低いことが,分かります.圧力鍋を使用しても,普通鍋に対して温度は約20℃アップに過ぎません.したがって,味の染みを早める効果は,ほとんど期待できません.
 逆に,材料が柔らかくなったら,あとは火を止めて放置しても,味の染み込む速度は,あまり低下しないと考えられます(ただし,材料を柔らかくしておかないと,味の染み込みは遅い).このような性質が,「煮物は冷えるときに味が染みる」という言葉を,生み出したのかもしれません.正しくは,「煮物は冷えるときに味が染みる」なのだと思われます.

 一日置いて味が染みた煮物は,おいしいものです.


(補足)
 文献[1]によると,食塩の自己拡散係数(食塩水中を食塩が移動するときの拡散係数)は,25℃で1.5×10^-9[m^2/s]とのことです.本ブログの大根の実験では,次の理由から,拡散係数は,この値より小さくなければなりません.
 a)調味液の分子は,水中でなく,大根の中を移動しなければならない.
 b)食塩でなく,色素(茶色)で,染み深さを判断している.色素の分子量>食塩の分子量と考えられる[2].一般に,分子量が大きいほど,拡散係数は小さくなる[1].
 しかし,本実験では,20℃で拡散係数が6×10^-9[m^2/s]と,文献[1]の食塩の値よりも,大きくなっています.とはいえ,きわめて簡単な実験のわりには,桁数が一致しています.ですので,当方としては,「合わない」のではなく,「なかなか良い一致」と考えています.

[2]宮島醤油HP;醤油の科学
 http://www.miyajima-soy.co.jp/

(補足2)
 今回の実験では,大根を下ゆで(材料の破壊)してから,味の染みを比較しました.しかし,実際の煮物では,材料の破壊と,味の染みが,同時並行で進むと考えられます.材料の破壊が進むほど,材料の空隙が増すので,染みの速度は速まると思われます.
 圧力鍋では,普通鍋に比べて,材料の破壊速度が約5倍になります.したがって,温度の影響でなく,材料の破壊によって,味の染みは,だいぶ速くなると思われます.
 ただ,当方の経験からすると,「しみしみ大根」を作るためには,約5分の加圧調理だけでは不足です.加圧しすぎると,大根の歯ごたえが消えてしまいます.加圧後,火から下ろして,一晩放置するのが,「しみしみ大根」を作る最もよい方法だと思っています.

(補足3) 2011/6/3
 「時間t[s]における染みの深さは,√Dに比例すると考えられます」と記載しました.しかし,これは,表層付近に限られるようです.十分深い部分では,染みの深さはDに比例するようです.

【今回の結論】
 「味の染み」を決定づける拡散係数は,温度依存性が低いと考えられます.このため,温度を多少上げ下げしても,味の染みの速さは,大して変化しないと言えます.
 このような性質から,煮物では,冷める時にも,冷めた後でも,味が染みていくのだと考えられます.


【バックナンバー】
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煮物に味が染みるのは,なぜ?~拡散方程式を解く
【今日の料理】 2011/5/28 夕食
 今日は,兄夫婦と姪(3歳10ヶ月)が,はるばる神奈川から,娘(3.5ヶ月)を見に,やってきました.彼らは多忙なので,「今日を逃したら次は正月だから」ということで,何とか都合をつけてくれました.ありがたいことです.
 姪は,ずっと忙しく動き回り,「何で~なの?」と聞いていました.たまに来客があると,賑やかで良いものです.兄夫婦と姪は,寿司とピザと食べ,シュークリームを食べ,帰って行きました.2時間ほどの滞在なので,食べて帰っただけ,という感じです.あわただしいですが,片道3時間の長旅ですので,仕方がありません.
 今日の夕食は,兄夫婦と姪に出したものの余りなので,かなり「崩壊した食卓」感を,醸し出しています.


★米飯,黒米入り

★ちらし寿司セット
 近所の京樽で購入しました.

★ピザ
 ピザハットで頼みました.「ハットクオリティ4」と「ハットテイスト4」のセットです.ピザを頼むのは,何年ぶりでしょうか.久しぶりに食べると,おいしいものです.

★ソーキ(豚軟骨しょうゆ煮)
 大量(1kg)に作りましたので,まだ残っています.時間が経つと,味が染みて美味です.

★りんご

【今日の料理工学】 煮物に味が染みるのは,なぜ?~拡散方程式を解く
 前回は,室温,普通鍋調理,圧力鍋調理,で,調味液の染みる速さを比較しました.その結果,温度の染みる速度への影響は,20℃につき1.1倍程度で,あまり大きくないことが,分かりました.

 では,そもそも「味が染みる」とは,どのような現象なのでしょうか.

★味が染みる現象のモデル
 材料を拡大したモデルを,下図1のように考えます.材料内部には,固形部と,空隙部があると考えられます.肉・野菜などの多くの食用材料では,空隙部には,水が入っています.
 このような材料を,調味液に漬けると,調味液内の分子(砂糖,塩,アミノ酸,色素など)が,材料内部の空隙に入っていきます.分子は,濃度が高いところから,低いところに進む性質があるからです.このような分子の移動を,「拡散」と呼びます.
 このように,拡散によって,調味液の分子が,材料内部に進むことで,材料に味がつく,と考えられます.これが,「味が染みる」という現象です.
<図1>
z20110528z1.jpg
 前回の実験結果では,下ゆでした材料では,下ゆでしない材料よりも,調味液が染みやすい,という結果でした.これは,次のように解釈できます.
 すなわち,下ゆでをすると,材料内部の固形部が破壊されます.これによって,固形部が細かくなり,空隙部が増します.そうすると,空隙部を通って,調味液が染みやすくなると考えられます.イメージを,下図2に示します.
<図2>
z20110528z2.jpg

★味の染みの定式化
 では,「味の染み」の,数学的モデルを考えてみます.
 下図3のような,1次元モデルを考えます.このモデルでは,x≧0に,材料があります.x<0の部分は,調味液で,その濃度c0[kg/m^3]は,一定に保たれています.
<図3>
z20110528z3.jpg
 このモデルにおいて,濃度c[kg/m^3]の分布および時間変化は,次式1にしたがいます.
<式1>
z20110528s1.jpg
 ここで,
 x:位置[m]
 t:時間[s]
 D:拡散係数[m^2/s]

 式1を,「拡散方程式」などと呼びます.この式1は,解析的に解けないことはなさそうです.しかし,筆者の能力の制限から,数値計算に頼ることにします.

 式1を見ると,当ブログの哺乳ビンの数値解析で用いた,熱伝導の式と,まったく同じ形をしています.したがって,哺乳ビンの数値解析で用いた数値解析手法を,「味の染み」モデルにも,そのまま適用可能です.
 哺乳ビンの場合と同様に,離散化をすると,次式2が得られます.
<式2>
z20110528s2.jpg
 ここで,
 ・c0:注目する短冊の濃度[kg/m^3]
 ・c+:注目する短冊の右隣(+x側)の短冊の濃度[kg/m^3]
 ・c-:注目する短冊の左隣(-x側)の短冊の濃度[kg/m^3]
 ・Δx:短冊の幅[m]
 ・Δt:解析のキザミ時間[s]
 
 計算条件は,以下の通りとしました.
 ・短冊の幅:Δx=0.0005[m](=0.5[mm])
 ・キザミ時間:Δt=0.2[s]
 ・拡散係数:D=5×10^-9[m^2/s]
 また,図3のモデルでは,x→∞まで,材料が存在します.しかし,数値計算では,材料を有限の長さとする必要があります.そこで,材料の右端を,十分遠方と思われるx=30[mm]としました.そして,右端での濃度=0[kg/m^3]で一定としました.

 以上の計算条件で,材料内部の濃度分布の変化を計算しました.計算結果を,図4に示します.横軸が位置x[mm],縦軸が濃度c(調味液濃度c0に対する比),です.いくつかの時間t[s]での分布を,示しました.
<図4>
z20110528z4.jpg
 位置=2mm(表面から2mm)に注目すると,以下のように濃度が変化しています.
 ・時間t=0s:濃度=0
 ・時間t=200s(=3.3min):濃度≒0.2
 ・時間t=600s(=10min):濃度≒0.5
 ・時間t=1200s(=20min):濃度≒0.6


 以上のように,式1を用いて,材料内部の濃度を計算できました.この計算上,キモになるのは,拡散係数Dです.拡散係数は,以下によって変化すると思われます.
 ・調理温度:温度が高いほど,Dが大きい(染みやすい).
 ・材料の種類:身が詰まっていない材料ほど,Dが大きい(染みやすい).
 ・調味液の種類:分子が小さい調味液ほど,Dが大きい(染みやすい).


【今回の結論】
 材料への「味の染み」は,拡散方程式によって,予測することができます.


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圧力鍋は,味が染みにくい?~大根を用いた比較実験
【今日の料理】 2011/5/27 夕食
 今日のトピックスは,特にありません.いつも通り,ジムに行き,買い物をして,料理をしました.典型的な,主夫の一日と言えそうです.
 あまりに暇なので,妻のブログ「てきとー母さん」を,てきとーに更新しておきました.妻のブログは,てきとーなので,更新がとても楽で,うらやましいです.


★米飯

★みそ汁,大根・大根葉

★豚肉カレー炒め
 余っていた,ハウスのジャワカレーを使いました.具は,にんにく・豚肉・にんじん・ピーマン・もやし・レタス.
 カレー炒めは初めてで,どんなものか不安でしたが,妻には,「たまには,いいんじゃない」との感想を頂きました.

★湯どうふ
 電子レンジでチン.かつおぶし,ねぎ,しょうがを添えて,ヤマサ昆布つゆをかけました.

【今日の料理工学】 圧力鍋は,味が染みにくい?~大根を用いた比較実験
 「今日の料理工学」の最初のテーマとして,圧力鍋を取り上げました.(→こちら)このときの結果として,以下のことが分かりました.
 ・圧力鍋の内部は,高温(例えば,約120℃)になっている.
 ・高温だと,アレニウスの定理により,材料の煮え(破壊)が著しく速く進む.
 ・120℃の調理では,100℃の調理に比べて,約1/5の時間で,煮える(柔らかくなる).


 圧力鍋は,調理が短時間で済むので,私は愛用しています.しかし,圧力鍋には,弱点がないわけではありません.
 短時間で材料が柔らかくなるのですが,味の染み込みが,いまひとつの気がするのです.つまり,材料の「煮え」(柔らかくなること)は,約5倍速いのですが,「味の染み」は,5倍も速くないように感じます.

 そこで今回は,実験をします.圧力鍋の調理で,「味の染み」がどの程度加速されるか,調べてみたいと思います.

 準備した試料を,図1に示します.試料の諸元は,以下の通りです.
 ・試料の種類:大根
 ・試料の形状:イチョウ切り
  ・半径:約40mm
  ・厚さ:約15mm
<図1>
z20110527z1.jpg
 上の試料をa,b,c,dの4個準備して,次の条件で,下ごしらえしました.
 ●試料a:
 ・そのまま(下ごしらえなし)

 ●試料b,c,d:
 )圧力鍋に,湯をわかす.
 )試料3個を,同時に投入する.
 )圧力鍋のフタをし,圧が上がってから5分加圧,その後自然冷却

 下ごしらえの後,それぞれ,以下の条件で調理しました.調味液は,しょうゆ:水=1:4で,混ぜたものです.
 ・試料a:室温(約20℃)で,調味液に10分間漬ける.
 ・試料b:室温(約20℃)で,調味液に10分間漬ける.
 ・試料c:普通鍋(100℃)で,調味液で10分間煮る.
 ・試料d:圧力鍋(推定120℃)で,調味液で10分間煮る.
 試料cとdでは,湯を煮立ててから,試料を入れました.また,試料dでは,フタをして圧が上がってから10分煮て,強制減圧(おもり徐荷)しました.

 調理終了後,試料a~dで,調味液の染み具合を比較します.比較項目は,以下としました.
 ・外観(表面および切断面)…目視観察による
 ・調味液の染みの深さ…定規(最小目盛=1mm)により測定
 ・味,食感…食べる人=36歳男性,かなりヒマ人

 調理の様子を,図2に示します.左から,試料a,b,d,c,です.
<図2>
z20110527z2a.jpg
 さて,期待の実験結果です.

 調理後の試料の外観を,図3に示します.左から,試料a,b,c,d,です.
 ・試料a:下ごしらえなし→室温で調味液に漬けた.
 ・試料b:圧力鍋で下ゆで→室温で調味液に漬けた.
 ・試料c:圧力鍋で下ゆで→普通鍋で調味液で煮た.
 ・試料d:圧力鍋で下ゆで→圧力鍋で調味液で煮た.
<図3>
z20110527z3.jpg
 試料a→b→c・d,の順で,色が濃くなっています.試料cとdで,色の差は,ほとんど分かりませんでした.

 試料を切断して,調味液の染み具合を観察しました.結果を,下図4に示します.
<図4>
(a)試料a:下ごしらえなし→室温で調味液に漬けた.
z20110527z4a.jpg
(b)試料b:圧力鍋で下ゆで→室温で調味液に漬けた.
z20110527z4b.jpg
(c)試料c:圧力鍋で下ゆで→普通鍋で調味液で煮た.
z20110527z4c.jpg
(d)試料d:圧力鍋で下ゆで→圧力鍋で調味液で煮た.
z20110527z4d.jpg
 観察結果をまとめます.
 ・試料a:ほとんど色がついていない.
 ・試料b:少しだけ色が染みている.染みた深さは,約1~2mm.
 ・試料c:やや深くまで色が染みている.染みた深さは,約3~4mm.
 ・試料d:やや深くまで色が染みている.染みた深さは,約3~4mm.
 ここで,染みた調味液の色は,グラデーションがかかっています.正確な測定は難しいので,エイヤ!で目視測定しました.
 
 最後に,各試料を食べてみました.「いただきま~す♪」
 ・試料a:ゴリゴリ.味がない.
 ・試料b:ちょうどよい固さ.味もちょうどよい.
 ・試料c:柔らかい.しょっぱい.
 ・試料d:とても柔らかい.しょっぱい.

 まとめです.
 ・味の染み具合は,圧力鍋調理と,普通鍋調理で,有意な差は認められなかった.
 ・室温(約20℃)に比べて,圧力鍋(推定120℃)or普通鍋(100℃)調理では,染みた深さが約2倍深かった.

 以前の考察では,煮える速さ(柔らかくなる速さ)について,以下の知見を得ています.
 ・100℃→120℃にすることで,5倍速く,柔らかくなる.

 これに対して,今回の結果から,以下のことが言えそうです.
 ・20℃→120℃にしても,染みる速さは,約2倍にしかならない.

 100℃の温度アップで染みる速さが2倍とすると,20℃の温度アップでは,染みる速さは次のようになりそうです.
  2^(20℃/100℃)≒1.1倍
 つまり,普通鍋→圧力鍋としても,染みる速さは,約1.1倍にしかならないと,推定されます.実際,今回の実験結果でも,普通鍋と圧力鍋とで,染みた深さに大差はありませんでした.

 以上の考察によると,圧力鍋の調理では,柔らかくなる速さは5倍なのに,染みる速さは1.1倍に過ぎません.したがって,圧力鍋を使うと,普通鍋に比べて,味のバランス(柔らかさと染み具合のバランス)が崩れるのは,不可避と思われます.圧力鍋を使う場合には,味付けの仕方に,注意をする必要がありそうです.

【今回の結論】
 圧力鍋を使った実験の結果から,以下が分かりました.
 ・調理温度20℃→120℃としても,調味液が染みた深さは,約2倍にしかならなかった.
 ・圧力鍋(内部温度120℃)を使っても,染みる速さは,普通鍋の1.1倍程度と推定される.


【バックナンバー】
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