前回から,玩具工学を始めました.今日の玩具工学は,「地球ゴマ」です.
地球ゴマの外観を図1に示します.地球ゴマは「タイガー商会」が販売する玩具です.ウィキペディアによると,発売は1921年とのことです.私がこの製品を購入したのは,今から20年ほど前です.秋葉原の駅前に,手品グッズを実演販売する出店があり,そこで入手しました.当時,1000円くらいだったと記憶しています.
<図1>
★地球ゴマの遊び方
地球ゴマは,次のようにして回します.まず,下図2のように,円板の軸に糸を巻きつけます.枠体を支えながら,この糸を思い切り引っ張ると,円板に回転が与えられます.円板の回転数は,糸を引く速さから推定すると,2000~3000rpm程度と思われます.
<図2>
下図3は,回っている地球ゴマです.枠体に収められた円板が高速で回転します.枠体に付けられた支柱が,床面に接地します.回転しているのは円板(と軸)だけで,支柱は回転していません.
<図3>
地球ゴマを実際に回す様子の,動画です(音量に注意).
地球ゴマの遊び方は,説明書にいくつか記載されています.曲芸ゴマとして,様々な遊びができるのです.下図4は,ペンの上で回る地球ゴマです.
<図4>
動画で紹介します(音量に注意).
この地球ゴマの動きが不思議なのは,重力に背いているように見えるから,だと思われます.下図5のように,円板の軸の一端だけを台に置いたら,円板の自重(重力)で,円板は転倒しそうです.実際,円板が回転していない場合には,円板は転倒します.
<図5>
しかし,円板が回転している場合は様子が違います.下図6のように,角速度ω[rad/s]で回転している円板の軸の一端を台に置きます.すると今度は,円板は転倒しません.その代わりに,円板は台を中心軸として,角速度Ω[rad/s]で回転するのです.
<図6>
この運動を円板から見ると,重力によるモーメント(mgL;Lは軸端から円板までの長さ)と釣り合うようなモーメントMが,円板に作用しているように見えます.このモーメントMが,いわゆる「ジャイロモーメント」です.ジャイロモーメントは,「コリオリの力」によって生じるモーメントと説明されます.
ジャイロモーメントやコリオリの力は,なぜ生じるのでしょうか.以下で,説明を試みます.(私の能力の制限から,今回は,直感的な説明に留めます.)
★ジャイロモーメントの直感的な説明
ジャイロモーメントの直感的な説明は,「遠心力の回転版」と言ったところです.(この説明は,私の勤めていた会社で以前上司だった方から,聞いたものです.)
下準備として,下図7は,遠心力の直感的な説明です.
<図7>
1)速度vで運動している物体を考える.
2)今,運動方向に直角な方向に,向心力Fが作用するとする.
3)すると,F=maで示される加速度aで,物体は加速される.
4)しかし,加速の方向は運動の方向に直角なので,物体は向きを変えるだけで,速度を保つ(v'=v).
5)したがって,運動に直角な方向に向心力を加え続けた場合は,物体は等速円運動をする.
この運動を物体から見ると,物体には,あたかも向心力と釣り合う荷重が作用しているように見えます.この力が「遠心力」です.
以上を踏まえて,ジャイロモーメントを考えます.図8を,ご覧ください.
<図8>
1)角速度ωで自転している物体を考える.
※角速度は,図のように,回転の軸に沿ったベクトルで表すのが一般的です.ベクトルの向きに対して右ねじの方向が,回転の方向となります.
2)今,自転軸に直角な方向(自転軸を倒すような方向)の,モーメント(ここでは,重力によるモーメントとする)が作用したとする.
※モーメントも,角速度と同様に,ねじりの軸に沿ったベクトルで表します.
3)すると,モーメントに対応した角加速度ξで,物体の回転が加速されます.
4)しかし,加速の方向は,自転の方向と直角なので,物体は自転の向きを変えるだけで,自転の角速度を保つ(ω'=ω).
5)したがって,自転軸を倒す向きにモーメントを加え続けた場合は,物体は等速で回転運動をする.回転運動の中心軸は,自転軸とモーメント軸の両方に直角となる.
この運動を物体から見ると,物体には,あたかも重力によるモーメントと釣り合うモーメントが作用しているように見えます.このモーメントが「ジャイロモーメント」です.
以上で,「ジャイロモーメントは遠心力の回転版」ということが,納得できたでしょうか.
以上の内容を理解した上で,再び地球ゴマを回してみます(動画,音量に注意).
この動画では,糸に吊るした地球ゴマの軸を,いろいろな向きに変化させています.手を離すと,鉛直軸に対する軸の向きが不変のまま,糸を中心としてコマがゆっくりと回転します.このゆっくりした回転を「歳差運動(precession)」と呼びます.歳差運動によってジャイロモーメントが生じるので,重力があっても,コマは倒れないのです.
以上のように,地球ゴマでは,ジャイロモーメントが働く様子を,実際に見ることができます.玩具の説明書には,このような説明がないのが,残念なところです.これでは,科学玩具に見えるものの,どこがどう科学なのか,はっきりしません.
続きます
(補足)
擦り切れて判読できませんが,確かパッケージには「遠心力応用玩具」と記載されていたと記憶しています.「遠心力」でなく「コリオリ力」が正しいと思うのですが,どうなのでしょうか.
(補足2) 2011/7/14
図8では,地球ゴマの動きと対比しやすいように,物体mが円運動をするように描きました.しかし実際には,図8のようにモーメントだけが作用した場合には,物体mは,その場で回転運動をします.
【今回の結論】
「地球ゴマ」を回すと,ジャイロモーメントのなんたるかを,なんとなく理解できるかもしれません.
地球ゴマは、通販で入手できます。
地球ゴマその他、コマ関連の商品ラインナップをまとめました。
会社で「ジャイロって,なんじゃぃろう?」と言ったら,無反応でした.
ギャグの程度が高すぎたのでしょうか.育休おじさんに一票を.
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地球ゴマの外観を図1に示します.地球ゴマは「タイガー商会」が販売する玩具です.ウィキペディアによると,発売は1921年とのことです.私がこの製品を購入したのは,今から20年ほど前です.秋葉原の駅前に,手品グッズを実演販売する出店があり,そこで入手しました.当時,1000円くらいだったと記憶しています.
<図1>
★地球ゴマの遊び方
地球ゴマは,次のようにして回します.まず,下図2のように,円板の軸に糸を巻きつけます.枠体を支えながら,この糸を思い切り引っ張ると,円板に回転が与えられます.円板の回転数は,糸を引く速さから推定すると,2000~3000rpm程度と思われます.
<図2>
下図3は,回っている地球ゴマです.枠体に収められた円板が高速で回転します.枠体に付けられた支柱が,床面に接地します.回転しているのは円板(と軸)だけで,支柱は回転していません.
<図3>
地球ゴマを実際に回す様子の,動画です(音量に注意).
地球ゴマの遊び方は,説明書にいくつか記載されています.曲芸ゴマとして,様々な遊びができるのです.下図4は,ペンの上で回る地球ゴマです.
<図4>
動画で紹介します(音量に注意).
この地球ゴマの動きが不思議なのは,重力に背いているように見えるから,だと思われます.下図5のように,円板の軸の一端だけを台に置いたら,円板の自重(重力)で,円板は転倒しそうです.実際,円板が回転していない場合には,円板は転倒します.
<図5>
しかし,円板が回転している場合は様子が違います.下図6のように,角速度ω[rad/s]で回転している円板の軸の一端を台に置きます.すると今度は,円板は転倒しません.その代わりに,円板は台を中心軸として,角速度Ω[rad/s]で回転するのです.
<図6>
この運動を円板から見ると,重力によるモーメント(mgL;Lは軸端から円板までの長さ)と釣り合うようなモーメントMが,円板に作用しているように見えます.このモーメントMが,いわゆる「ジャイロモーメント」です.ジャイロモーメントは,「コリオリの力」によって生じるモーメントと説明されます.
ジャイロモーメントやコリオリの力は,なぜ生じるのでしょうか.以下で,説明を試みます.(私の能力の制限から,今回は,直感的な説明に留めます.)
★ジャイロモーメントの直感的な説明
ジャイロモーメントの直感的な説明は,「遠心力の回転版」と言ったところです.(この説明は,私の勤めていた会社で以前上司だった方から,聞いたものです.)
下準備として,下図7は,遠心力の直感的な説明です.
<図7>
1)速度vで運動している物体を考える.
2)今,運動方向に直角な方向に,向心力Fが作用するとする.
3)すると,F=maで示される加速度aで,物体は加速される.
4)しかし,加速の方向は運動の方向に直角なので,物体は向きを変えるだけで,速度を保つ(v'=v).
5)したがって,運動に直角な方向に向心力を加え続けた場合は,物体は等速円運動をする.
この運動を物体から見ると,物体には,あたかも向心力と釣り合う荷重が作用しているように見えます.この力が「遠心力」です.
以上を踏まえて,ジャイロモーメントを考えます.図8を,ご覧ください.
<図8>
1)角速度ωで自転している物体を考える.
※角速度は,図のように,回転の軸に沿ったベクトルで表すのが一般的です.ベクトルの向きに対して右ねじの方向が,回転の方向となります.
2)今,自転軸に直角な方向(自転軸を倒すような方向)の,モーメント(ここでは,重力によるモーメントとする)が作用したとする.
※モーメントも,角速度と同様に,ねじりの軸に沿ったベクトルで表します.
3)すると,モーメントに対応した角加速度ξで,物体の回転が加速されます.
4)しかし,加速の方向は,自転の方向と直角なので,物体は自転の向きを変えるだけで,自転の角速度を保つ(ω'=ω).
5)したがって,自転軸を倒す向きにモーメントを加え続けた場合は,物体は等速で回転運動をする.回転運動の中心軸は,自転軸とモーメント軸の両方に直角となる.
この運動を物体から見ると,物体には,あたかも重力によるモーメントと釣り合うモーメントが作用しているように見えます.このモーメントが「ジャイロモーメント」です.
以上で,「ジャイロモーメントは遠心力の回転版」ということが,納得できたでしょうか.
以上の内容を理解した上で,再び地球ゴマを回してみます(動画,音量に注意).
この動画では,糸に吊るした地球ゴマの軸を,いろいろな向きに変化させています.手を離すと,鉛直軸に対する軸の向きが不変のまま,糸を中心としてコマがゆっくりと回転します.このゆっくりした回転を「歳差運動(precession)」と呼びます.歳差運動によってジャイロモーメントが生じるので,重力があっても,コマは倒れないのです.
以上のように,地球ゴマでは,ジャイロモーメントが働く様子を,実際に見ることができます.玩具の説明書には,このような説明がないのが,残念なところです.これでは,科学玩具に見えるものの,どこがどう科学なのか,はっきりしません.
続きます
(補足)
擦り切れて判読できませんが,確かパッケージには「遠心力応用玩具」と記載されていたと記憶しています.「遠心力」でなく「コリオリ力」が正しいと思うのですが,どうなのでしょうか.
(補足2) 2011/7/14
図8では,地球ゴマの動きと対比しやすいように,物体mが円運動をするように描きました.しかし実際には,図8のようにモーメントだけが作用した場合には,物体mは,その場で回転運動をします.
【今回の結論】
「地球ゴマ」を回すと,ジャイロモーメントのなんたるかを,なんとなく理解できるかもしれません.
地球ゴマは、通販で入手できます。
地球ゴマその他、コマ関連の商品ラインナップをまとめました。
会社で「ジャイロって,なんじゃぃろう?」と言ったら,無反応でした.
ギャグの程度が高すぎたのでしょうか.育休おじさんに一票を.
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ふらりと立ち寄りました。この記事を7年後に読みました。もう今では地球ゴマも廃業で生産されてないですが、ググると、別の製品「地球ジャイロ」に生まれ変わって復活していたようです・・・そんなことをつらつら書き留めてみました。
スナフキン | URL | 2018/12/08/Sat 02:37 [編集]
> スナフキン さん
ご訪問ありがとうございます。地球ゴマの生産終了の件、寂しく思います。「地球ジャイロ」の情報、ありがとうございます。こちらは高級品で、対象年齢も12歳以上のようですね。子供が自由に遊ぶのは、難しそうで、少し残念です。 コメントありがとうございました。 マツジョン | URL | 2018/12/09/Sun 18:04 [編集]
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