今日のおじさん、なに食べました? (仮)

妻の料理と、おじさんの毎日の記録です。ほんのり工学テイスト。

omocha201612.jpg
↑↑↑画像クリックで、我が家のおもちゃを紹介します!↑↑↑
硬度が高い包丁ほど,切れ味が良い?~材質よりも鋭利さ
【今日の料理】 2011/5/6 夕食
 娘(2.9ヶ月)が,下痢になってしまいました.原因は分かりません.昨日から,緩い便が続き,母乳やミルクを飲むと,すぐにそのまま便になって出てしまいます.
 機嫌は良く,熱もないので,様子を見ていましたが,念のため,病院に行くことにしました.その結果,特に所見はなく,整腸剤を処方されました.もうしばらく,様子を見てください,とのことでした.しかし,体重が少し減ってしまっています.乳児の下痢は,長引く(1~2週間続く)らしいので,心配です.

★米飯,黒米入り

★みそ汁,なす・えのき

★白菜と豚肉の重ね煮(水晶鍋)
 文献[1]のアレンジ.白菜と豚薄切り肉を交互に重ねて,水と酒を加え,15分ほど蒸しました.豚肉には,しょうゆと酒で,下味を付けています.ポン酢と七味で頂きました.
 今日は,白菜が1玉=98円と,格安でした.しばらく,白菜三昧を楽しめそうです.
[1]浅田峰子;基本の台所,グラフ社,(2002)

★わかめの山芋がけ
 文献[2]より.水で戻したカットわかめに,山芋をかけたもの.味付けは,昆布つゆです.
[2]奥園壽子;超ムダなし!食べきりレシピ,家の光協会,(2009)

【今日の料理工学】 硬度が高い包丁ほど,切れ味が良い?~材質よりも鋭利さ
 昨日に引き続き,包丁の話.
 包丁は,調理道具としては,かなりの人気を誇っているようです.包丁については,かなり「濃い」情報が,インターネット上に,掲載されています[3][4].
 文献[3]では,「研ぎ師」の方が,包丁等の刃物や研ぎ方について,詳しく説明しています.
 また,文献[4]では,「厨房に立つ男子」の方が,包丁の材料や熱処理について,詳しく解説しています.
 さらに,文献[5]では,包丁の材料や製造方法,切れる仕組みなどについて,詳細に解説されています.
[3]BRO;包丁噺
 http://hamonotogiya.blog75.fc2.com/[4]佐田守弘;男の調理場 道具編
 http://homepage3.nifty.com/m_sada/COOKING/COOK_TOP.html
[5]藤寅工業;ホームページ
 http://tojiro.net/jp/guide/part_blade.html

 上のような文献を見てしまうと,2000円の包丁1本しか持っていない当方が,包丁について語るのは,おこがましいと思われてきました.でも,素人なりに頑張ってみます.上の文献には,定性的な説明は充実していますが,定量的な説明が,あまり見られません(煩雑になるので書いていないだけの可能性がありますが).この点を考察することで,何らかの新しい知見が得られることを,期待したいと思います.

 さて,今日は,包丁の切れ味について,考察します.
 「切れ味」を定義するのは,非常に難しいと思います.そこで,今回は,「無傷の材料の表面に,傷を付けるのに要する力」について,考えます.この力を,「表面破断力」と名づけることにします.材料表面に傷を付けた後,材料を完全に分断するまでの間に要する力については,今回は検討しません.

 文献[3][5]によると,包丁の刃の先端(エッジ)は,複雑な形状になっています.すなわち,拡大してみると,細かいノコギリ刃になっている,ということです.
 しかし,今回は,単純化のために,包丁の刃の先端の形状を,次のように仮定します.
 ・刃の先端の断面形状は,半径Rの単一円弧形状とする.
 ・長手方向については,一様な断面形状とする.

 また,実際の包丁では,押し切り・引き切りなど,様々な切断方法をとります.しかし,今回は,次を仮定します.
 ・包丁を材料に対して真下に静かに押す,という切断方法をとる.

 さらに,以下を仮定します.
 ・包丁の刃,切断される材料は,フックの法則が成り立つ(応力とひずみが比例する)材料だとする.

 上のような仮定の下では,包丁の刃と,切断される材料との接触応力は,Hertz(ヘルツ)の式によって,計算できます[6].すなわち,図1のようなモデルを考えると,最大接触応力Pmax[N/mm^2]は,次式1で計算されます.
[6]山本,兼田;トライボロジー,理工学社,(1998)
<図1>
z20110506z1.jpg

<式1>
z20110506s1.jpg

 ここで,
 W:接触荷重[N]
 L:接触部の長手方向(紙面垂直方向)の長さ[mm]
 また,b:接触部の半幅は,次式2で計算されます.
<式2>
z20110506s2.jpg

 R:等価半径[mm],E:等価縦弾性係数[N/mm^2]は,次式3で与えられます.
<式3>
z20110506s3.jpg

 ここで,
 RⅠ,RⅡ:物体Ⅰ,Ⅱの曲率半径[mm]
 EⅠ,EⅡ:物体Ⅰ,Ⅱの縦弾性係数[N/mm^2]
 νⅠ,νⅡ:物体Ⅰ,Ⅱのポアソン比[null]
 
 以上の式を用いて,表面破断力Wを求めてみます.
 材料の破壊については,様々な説があります[6].ここでは,単純に,最大接触応力Pmax=材料の破断応力σb,[N/mm^2]となったときに,破壊(切断)が生じる,としてみます.
 式1~式3から,表面破断力Wは,次式4となります.
<式4>
z20110506s4.jpg

 実際の材料を想定して,式4を用いて,表面破断力Wを計算してみます.以下の値を用いました.
●包丁の刃
 ・縦弾性係数:EⅠ=210000N/mm^2 …鋼材の値
 ・ポアソン比:νⅠ=0.3 …鋼材の値
 ・曲率半径:RⅠ=0.001mm~0.05mmの範囲で計算
●切断される材料
 ・縦弾性係数:EⅡ=1000N/mm^2 …ポリエチレンの値
 ・ポアソン比:νⅡ=0.3 …一般値
 ・曲率半径:RⅡ=∞ …平面とする
 ・破断応力:σb=30N/mm^2 …ポリエチレンの値
 ・材料の長さ:L=100mm
 ここで,料理用の材料の物性値が不明のため,ポリエチレンの値を用いました.ポリエチレンは,樹脂まな板に用いる素材です.かなり,固い物を切るとした想定です.

 以上の値を用いて,RⅠ(包丁の刃の先端半径)と,表面破断力Wの関係をプロットしたのが,下図2です.
<図2>
z20110506z2.jpg

 包丁の先端は,目視で見て,髪の毛よりも薄いように見えます.髪の毛の直径が50μm程度ですから,包丁の先端半径は,30μmは超えないと推定されます.そこで,先端半径を30μm(0.03mm)とすると,表面破断力は,W=2N(200gf),と読み取れます.当方所有の包丁の自重が約1N(100gf)ですから,これは,かなり軽く切れる,ということになります.
 試しに,手元にある樹脂まな板に,包丁を軽く押し付けてみると,スジが付きました.上記の考察は,甚だ見当違い,ということは,なさそうです.

 ところで,包丁で材料を切る,というときは,EⅠ(包丁の刃の縦弾性係数)>>EⅡ(材料の縦弾性係数)と考えてよいと思われます.このとき,式3から,E≒2EⅡ/(1-νⅡ^2),となります.すなわち,切れ味のうち,「表面破断力」に関する限り,包丁の刃の材質はほとんど関係しない,ということになります.包丁の刃の材質が何であろうと,先端が鋭利であれば,表面破断力は,小さくなります.逆に,先端Rが大きいときは,どんなに硬い材質や,剛性の高い材質を用いようとも,表面破断力は小さくできない,と言えます.
 ともすると,硬度が高い=切れ味が良い,と考えてしまいそうですが,そうではないようです.
 ただ,鋭利な先端を,使用中も壊さずに持続させるためには,材料の硬度が高い=強度が高い,ことが必要です.次回は,このへんについて,考察したいと思います.


(補足1)
 この検討では,先端半径を数十μmと仮定していました.しかし,後日,文献[7]等の記述から,数μmが妥当と考えました.この値を用いると,切断に要する力は,W=0.2N(100gf)と,非常に小さくなります.
[7]井上;理美容鋏の切断特性と切れ味の定量的評価に関する研究,早大博士論文,(2006)
 http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/handle/2065/5343

(補足2)
 実際の包丁では,先端は長手方向に一様な形状ではありません.すなわち,ノコギリ刃状になっています[3][5].しかし,この場合でも,材料表面の切断の基本メカニズムは,上述と同様と考えられます.すなわち,力をかける方向が変化するだけで,刃の先端が,材料を切断することは,変わらないと考えられます.ただし,刃と材料の接触状態は,線接触よりも点接触に近くなるかもしれません.この場合,同一荷重では接触応力は高くなると思われます.すなわち,切断に必要な力は,より小さくて済むと,推察されます.

(補足3)
 上の検討では,簡単のために,最大接触応力≧破断応力,で,破壊が生じるとしました.しかし,破壊が生じる条件には,さまざまな理論があります.そして,どの理論においても,複数の応力成分の組み合わせを用いて,破壊の可否を判断します.これらの理論に基づけば,切断される材料の破壊は,刃の先端の直下表面でなく,先端の周縁(引張応力最大),あるいは,直下内部(せん断応力最大)となるかもしれません.
 しかし,最大接触応力を用いても,オーダー(桁数)的には大差ないと考えて,ここでは上述のような簡単化をしています.


【今回の結論】
 刃の先端が鋭利なほど,材料表面の切断に要する力が小さくて済みます.
 刃の材質や硬度は,材料表面の切断に要する力には,あまり関係しません.


【バックナンバー】
包丁編・前の記事:包丁の材質
包丁編・次の記事:硬度の必要性

包丁編・一覧へ
引越し前の住所(BIGLOBE)で頂いたコメントです.
--------
こんにちわ。
理系じゃないので計算は全くわかりません(笑)

刃先の幅をマイクロスコープで拡大観察すると、よく研いだ状態で通常は数μm程度、きわめてよく研いだ状態で1μm以下ぐらいだそうです。
http://blogs.yahoo.co.jp/marimari0530

毛髪がφ80μmぐらい、理美容ハサミの刃先端Rが出荷時で0.5μmぐらいだそうです。
http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/5343/3/Honbun-4190.pdf

硬さって粒子の結合強度だから、1μmといったレベルまで刃先端が薄くなったときに、結合の保持力が問題になってるんじゃないかと想像しています。
硬度の高い刃物ほど薄く研ぐことができる。柔らかい鋼材はあまり薄く研げない。ということではないか、と。

BROさん,2011/05/07 01:46

--------
 コメント&情報提供,ありがとうございます.この博士論文は,とても興味深いです.機械屋というと,メカっぽいものを扱うイメージですが,雑学的な研究も,実は機械屋の得意分野だと思っています.
 さて,先端半径が数μmだとすると,今回の条件では,表面切断力は数10gfとなります.しかし,現実の切断で必要な力は,もっと大きそうです.包丁で切るときの力を考えるときは,今回の表面切断力ではなく,傷を開きながら切り進んでいくときの力を考えるべきなのかもしれません.

マツジョン ,2011/05/07 23:33

--------
直径80μmの毛髪を切断するなら「無傷の材料の表面に,傷を付ける」力と誤差はあまりないかもしれません。
厚みのある物は、対象物を押し広げながら切り進むとき切刃に斜面抵抗がかかります。表面の摩擦抵抗も鋼材によって違うし、同じ鋼材でも磨き具合で違います。食材によっては鏡面に磨く方が張り付いて抵抗になったりします。
BRO,2011/05/08 00:30

--------
 コメントありがとうございます.
 確かに,ジャガイモ等は,貼り付いて切りにくいことがあります.斜面抵抗や摩擦抵抗については,今後検討してみたいと思っています.

マツジョン ,2011/05/08 22:44

--------
はじめまして
刃先の力学ですか
とても興味深く拝見させていただきました

この記事では、包丁を押し引きせずに押し付けた場合とのことですので、包丁よりも剃刀の方が説明に合っていると思います
剃刀の場合、硬い鋼材の方が良く剃れるとは限りません
剃刀の場合、鋼材の硬さは「研ぎ易さ」とか、「刃先の形状」「長切れ」に影響します
そして、剃刀は刃先のノコギリ刃を可能な限り消すので、この記事の刃先と切れ味の説明に準じているかな~っと思いました

包丁は明瞭なノコギリ刃をつけるため、刃先はご説明のような丸い刃にはなりませんし、
押し引きして切るので話は変わってきますね
「包丁での硬度とは」ですが、「研ぎ易さ」「長切れ」「ノコギリ刃の鋭さ、きめ細かさ」などに影響してきます

酪農家さん,2011/05/14 08:19

--------
>酪農家さん
 コメントありがとうございます.
 ネットで検索してみると,包丁や刃物に関するマニアックな記事が多数あることに,驚いています(貴ブログも,既に拝見しております).この記事を書いた後,色々な「包丁系」ブログやHPを読み,ノコギリ刃の存在を知りました.
 ノコギリ刃を知ってからは,包丁の前後の移動を意識するためか,以前よりも軽く切れるような気がします.
 ノコギリ刃で先端が鋭利ということは,この記事の推定よりも更に先端が細くなるので,より一層硬さ(強度)が必要,ということになるかもしれません.

マツジョン ,2011/05/14 23:17

--------
あ、僕のブログご覧下さいましたか
ありがとうございます!

>より一層硬さ(強度)が必要
焼きが甘めの軟らかい包丁は、どうしても刃先の鋭さに欠けるのは事実ですね
ただ、「焼きが甘い(少し軟らかい)=質が悪い」 とは限らないのが難しいところです
日々研ぐことを考えて、研ぎ易さも考慮していたり、刃欠けし無いように、少し軟らかく打ってある包丁も多々ありますので。

酪農家さん,2011/05/15 14:07

--------
あ、そうそう
マツジョンさんの刃先力学の記事はとても面白いので、いくつかの記事を僕のブログで紹介させて頂いてもよろしいでしょうか?

酪農家さん,2011/05/15 14:12

--------
>酪農家さん
 コメントありがとうございます.このようなマニアックな記事が受け入れられることに,妻ともども驚いています.是非,紹介して下さると,嬉しいです.

マツジョン ,2011/05/15 23:06
関連記事
スポンサーサイト
omocha201612.jpg
↑↑↑画像クリックで、我が家のおもちゃを紹介します!↑↑↑









管理者にだけ表示を許可する


SLD-MAGIC新理論
 オイルコーティングの新理論、CCSCモデルは反響がでかいですね。ネット上の情報ではいかにもダイヤモンドに潤滑性があるように言及するものが多いがこの理論はそれをキッパリと否定しているところに好感が寄せられているのかもしれません。エンジニアの常識としてダイヤモンドは研磨剤であり潤滑剤ではないというのが一般的認識ですから。
 あと国産エンジンのダウンサイジング化が叫ばれているのも盛り上がりの一要因かもしれません。
トライボケミカル | URL | 2014/11/15/Sat 00:18 [編集]
> トライボケミカル さん
 記事に関係ないコメントのように思えますが、当方トライボ関連に興味がありますので、参考になりました。ありがとうございます。(引用文献を頂けると、さらにありがたいのですが。)
 金型寿命の向上を目指した鋼材のようで、炭化物の形態制御によって、耐摩耗性を向上したようです。SLD-MAGICへのリンクを記載しておきますよ。 https://www.hitachi-metals.co.jp/pdf/cat/hl-y48-i.pdf
マツジョン | URL | 2014/11/15/Sat 21:32 [編集]



トラックバック
TB*URL







Copyright © 今日のおじさん、なに食べました? (仮). all rights reserved.