今日のおじさん、なに食べました? (仮)

妻の料理と、おじさんの毎日の記録です。ほんのり工学テイスト。

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包丁を焼入れすると硬くなるのはなぜ?~マルテンサイト変態
【今日の料理】 2011/5/13 夕食
 今日は,久しぶりに天気がよく,快適に過ごせました.そこで,今日は,1時間ほどジョギングに行ってきました.5/22に,マラソン大会(ハーフマラソン≒21.1km)があるので,その練習です.
 1時間ですと,距離にして10km程度なのですが,なんと,足の小指にマメができかかってしまいました.靴のせいなのか,靴下のせいなのか,足の皮が軟弱なせいなのか,分かりませんが,本番までに,なんとかしたいものです.

★米飯

★みそ汁,じゃがいも・ほうれんそう

★めかじきの香草ソテー,にんにくソース
 めかじきに,塩・こしょう,小麦粉,パセリの順にふりかけたものを,ふっ素樹脂フライパンで焼きました.ふっ素樹脂フライパンは,焦げ付かず,失敗がありません.料理の腕が,3割上がった気分です.
 ソースは,オリーブオイルでにんにくを炒めた後,しょうゆ・酒・水を混ぜて,煮詰めたものです.オリジナルレシピの割には,おいしくできました.妻にも好評でした.

★かぼちゃ煮
 圧力鍋,加圧3分.砂糖と醤油で煮ました.今日は,やや甘口.

★トマト

★お助け惣菜
・手作りキムチ
・おかか昆布

【今日の料理工学】 包丁を焼入れすると硬くなるのはなぜ?~マルテンサイト変態
 前回の考察結果から,包丁を研ぐインターバルを長くするには,「硬度(静的強度,疲労強度)」と「じん性(耐衝撃性)」のバランスが重要だということが,分かりました.

 では,鋼の硬度と,じん性は,何によって決まるのでしょうか.そこで今回は,鋼について,考察してみます.

 最初に,「鉄」と「鋼(はがねorこう)」の違いについて,簡単に説明します.鉄と鋼は,工業的には,以下のように使い分けられるのが通例のようです.
 ・鉄:不純物がない(または,ごく僅かな),鉄(純鉄,元素記号=Fe).
 ・鋼:鉄に,合金元素(意図的に加えた不純物)を加えたもの.
  合金元素として,炭素(元素記号=C)を加えたものは,「炭素鋼」,または,単に「鋼」と呼ぶことがある.
  ※炭素量が2wt%を超えるものは,「鋳鉄」などと呼びます[1].

[1]須藤;機械材料学,コロナ社,(1985)

 上の区分によると,我々が普段,「鉄」と呼んでいるものは,ほとんどが「鋼」で,「鉄」ではありません.純鉄は一般に軟らかすぎるので,適度に炭素を加えることで,硬さ(強度)を与えて,使いやすくしているのです.

 さて,「鉄の包丁」と言う場合,「炭素鋼の包丁」を指します.(これに対して,「ステンレスの包丁」は,炭素以外の合金元素(クロムCrなど)が多量に含まれています.)
 炭素鋼は,鉄と炭素の合金です.炭素の含有量を変えることによって,性質の異なる炭素鋼が得られます.炭素の含有量が,炭素鋼の性質に,どのような影響を与えるかを推察するには,「状態図」を用いると便利です.下図は,Fe(鉄)-C(炭素)系の,状態図です(正確には,Fe-Fe3C系の状態図).
<図1>
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 状態図では,横軸に炭素量[wt%],縦軸に温度がとられます.状態図を用いると,任意の炭素量の炭素鋼について,任意の温度での組成が分かります.例えば,炭素量1wt%のときを考えてみます.下図2を参照ください.
<図2>
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)温度が十分高い(1500℃くらい)ときには,「液体」のエリアにいます.つまり,この鋼は,ドロドロに溶けています.
)温度を少しづつ下げていくと,「γ+液体」のエリアにきます.「γ(ガンマ)」は,固体の鋼の結晶構造のひとつを示します.このエリアでは,「γ」という固体の鋼と,溶けた液体の鋼が,混在していることを示します.
)さらに温度を下げると,「γ」のエリアにきます.この温度では,鋼は「γ」の固体だけになっています.
)続けて温度を下げると,「γ」の一部が「Fe3C」に変わり,「γ+Fe3C」のエリアにきます.「Fe3C」は,鉄と炭素の化合物(鉄の炭化物)です.このエリアでは,「γ」と「Fe3C」が,混在します.
)図で示したA1点(727℃)以下になると,「γ」が「α+Fe3C」に変化します.「α(アルファ)」は,「γ」同様,固体の鋼ですが,「γ」とは結晶構造(Fe原子の並び方)が,少し違います(α:bcc構造,γ:fcc構造).

 なお,上述の「α」「γ」「Fe3C」には,別の呼び名があります.
 α:フェライト(または,αフェライト)
 γ:オーステナイト
 Fe3C:セメンタイト

 結局,炭素量1wt%の鋼は,室温では,「フェライト(α)」と「セメンタイト(Fe3C)」の混在した組織,ということになります.なお,図2のA1点(727℃)では,オーステナイト(γ)から,フェライト(α)とセメンタイト(Fe3C)が同時に生成されます.このとき,フェライトとセメンタイトは,交互に並んだ層状の組織になります.この層状の組織を「パーライト」と呼びます.

 さて,包丁に用いられる炭素鋼は,0.8~1.4wt%程度の炭素を含むようです[2].
[2]日立金属;YSS高級刃物鋼カタログ,(2006)
 http://www.hitachi-metals.co.jp/prod/prod19/p19_13.html

 そうすると,包丁の刃も,上述した「フェライトとセメンタイトの混在した組織」になっているのでしょうか.

 ところが,実際は,そうではありません.これは,「焼入れ」をしているためです.

 「焼入れ」は,ある温度(包丁の鋼の場合,図2のAcm線より上,「γ」のエリア)まで加熱した鋼を,急激に冷却することです.実は,上述の状態図は,ゆっくり冷却したときの組成変化だけを示しています.鋼では,急激な冷却を行うと,状態図にない組織が現れるのです.この特別な組織を,「マルテンサイト」と呼んでいます.鋼のマルテンサイトは,硬度が高いのが特徴です.

 なぜ急激な冷却をすると,「フェライトとセメンタイト」ではなく,「マルテンサイト」になるのでしょうか.これは,次のように説明されます[1][3].再び,図2を参照して,炭素量が1wt%の鋼を考えます.
<図2>(再掲)
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 まず,「γ」のエリアから考えます.「γ」内には,鉄原子と炭素原子が,ほぼ一様な濃度で分布していると考えられます.
 徐々に冷却して,Acm線を過ぎると,「γ」の一部が「Fe3C」に変化します.「Fe3C」は,鉄原子3個と炭素原子1個が結びついた化合物です.この原子個数の比率から,「Fe3C」の炭素濃度は,6.67wt%となります.もとの「γ」の炭素濃度は1wt%だったので,「Fe3C」では,炭素濃度が増しています.つまり,「γ」内の鉄原子と炭素原子が移動して,炭素濃度の高い部分と低い部分ができた,と考えられます.
 さらに冷却して,A1点を過ぎるときには,同様に「γ」内に炭素濃度の濃淡ができて,炭素の少ない「α」と炭素の多い「Fe3C」が生成されます.
 以上のように,「γ」が「フェライト(α)とセメンタイト(Fe3C)」に変化するためには,炭素濃度の濃淡ができる必要があります.そのためには,鋼の中を,鉄原子や炭素原子が,ある程度自由に移動できなければなりません.しかし,このような移動は,鋼の温度がある程度高くないと,不可能なのです.
 鋼を「γ」のエリアから急激に冷却した場合は,本来は「フェライトとセメンタイト」になりたいのです.しかし,温度が一気に下がってしまうので,鉄原子や炭素原子が十分に動けません.よって,「γ」が1wt%の炭素を含んだまま,冷却されてしまいます.ところが,鉄の結晶構造は,低温では「γ」よりも「α」が安定です.このため,炭素を含んだまま,「α」に近い結晶構造になろうとして,結晶に変形(マルテンサイト変態)が生じます.この変形の結果,マルテンサイトが生まれると,考えられます.

[3]日本金属学会,鉄鋼材料,(1985)

 マルテンサイトには,次の特徴があります[1][3].
a)鉄原子の間に,炭素原子が強引に入り込んだような原子配列になっている.このため,原子配列に,ゆがみができる.このゆがみによって,原子の相対移動が阻害される.したがって,塑性変形(永久変形)しがたく,高い強度(硬度)が得られる.この効果は,炭素の量が多いほど,大きくなる.
b)「γ」よりも,密度が低い(体積が大きい).このため,「γ」がマルテンサイトになるときに,結晶内部に塑性変形が生じる.この塑性変形によって,原子配列に部分的な欠陥(転位)が多数生じる.この欠陥も,原子の相対移動を阻害する作用がある.よって,高い強度(硬度)をもたらす.

 こうしてみると,マルテンサイトの高い強度の要因は,「原子配列のゆがみ・欠陥」と考えられます.ゆがみ・欠陥は,一見,強度低下の要因と思われます.しかし,上述のように,原子の相対移動を阻害する効果がありますので,むしろ,強度が上がるのです.
 ただし,原子の相対移動を阻害する,ということは,材料の延性(伸びやすさ)も阻害している,と考えられます.延性が低い材料は,衝撃荷重を受けたときに,あまり変形できず,エネルギーを吸収できません.すなわち,衝撃荷重を受けると,一気に破壊してしまう(じん性が低い),と推察されます.

 マルテンサイトの硬度は,炭素の量で制御できます.つまり,硬度とじん性のバランスを保つ鋼を実現するためには,まずは炭素量の選定が重要,と考えられます.

 また,焼入れをはじめとした熱処理の条件も,硬度とじん性に,大きな影響を与えます.熱処理は,だいたい以下の手順で行うようです[1].
 a)焼きならし:結晶粒を細かく,均質にする.≒900℃,空冷
 b)焼きなまし:セメンタイト(Fe3C)を微細化する.≒800℃,徐冷
 c)焼入れ:マルテンサイト変態により,硬化する.≒800℃,水冷or油冷
 d)サブゼロ処理:マルテンサイト変態していないオーステナイトを,マルテンサイト化する.室温以下
 e)焼戻し:じん性を向上する.≒150~180℃,徐冷
 ※手順cで,高温での保持時間を短めにすると,一部のセメンタイトが残る.そうすると,セメンタイトによる高度アップも期待できる.セメンタイトは硬いため.また,塑性変形の阻害作用もある.

 つまり,硬度とじん性のバランスは,生まれ(材料)と育ち(熱処理)の両方によって決まる,と言えそうです.

(補足)
 鋼以外の金属や合金でも,マルテンサイト変態するものがあります.例えば,チタン合金です[1].しかし,チタン合金では,マルテンサイト変態しても,硬度はあまり増大しません.このため,チタン合金のマルテンサイト変態は,硬度を高める目的では,使用されないようです.
 また,マルテンサイト変態によって,むしろ軟化する合金もあるそうです[3].

(補足2)
 材料の強度を高めるための代表的な手段として,以下の4つがあります[1].
 a)結晶粒の微細化
 b)固溶強化
 c)分散強化
 d)転位の導入(加工硬化)

 鋼では,以下のように,上のa)~d)を,全て利用しています.
 a)「焼きならし」で,均質で微細な結晶を得る.
 b)「焼入れ」で,鉄原子の間に,炭素原子を高濃度に取り込む.
 c)「焼入れ」の際に,高温での保持時間をやや短くして,一部のセメンタイトを残しておく.
 d)「焼入れ」で,結晶内部に塑性変形を生じさせる.
 
 このように,鋼は,色々な手段で強度を高めており,「とても欲張りな合金」と言えるかもしれません.


【今回の結論】
・包丁に用いられる鋼の高い硬度は,「焼入れ」によって生じる「マルテンサイト」変態に,主に起因します.
・炭素量の多い鋼ほど,高い硬度が得られます.しかし,「じん性」は劣ります.


【バックナンバー】
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