今日のおじさん、なに食べました? (仮)

妻の料理と、おじさんの毎日の記録です。ほんのり工学テイスト。

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ステンレス包丁の欠点は?~問題は「炭化物」だ
【今日の料理】 2011/5/15 夕食
 今日は日曜日,妻が料理を作ってくれる日です.お蔭で,私は一日ゆっくり休めますので,ありがたいことです.午前中は,ぐっすり寝て,また一週間頑張ろう,という気になりました.

★米飯

★みそ汁,わかめ・絹さや

★豚角煮
 以前,安売りで買って,冷凍しておいた豚バラ肉(100g=98円)を使いました.クックパッドレシピだそうです.豚肉は,一度圧力鍋で茹でた後,洗います.その後,つゆを加えて,もう一度煮ます.
 豚肉がとろとろ柔らかになり,おいしかったです.また,一緒に煮た大根・卵・ほうれん草も,味が染みており,美味でした.「さすが,我が妻」と実感する,とても良い出来でした.

★そら豆しょうゆ煮
 そら豆は,初めて買いました.しょうゆで煮ただけですが,おいしかったです.ただ,皮が少し固くなってしまったのが残念.重曹などを使ったほうが良いのでしょうか.

★浅漬け,春キャベツ・塩こんぶ

★トマト

【今日の料理工学】 ステンレス包丁の欠点は?~問題は「炭化物」だ
 引き続き,包丁に関してです.

 前回の考察から,「ステンレス包丁が鉄包丁より切れ味が劣る」原因としては,以下がありそうです.(※b)は,前回漏れていたので,追加しました.)
 a)ステンレス包丁は,硬度は鉄包丁と同等だが,先端を鋭利にしにくい.
 b)ステンレス包丁は,硬度は鉄包丁と同等だが,先端の鋭利さを維持しにくい.
 c)ステンレス包丁は,鉄包丁よりも,(意図的に)硬度を低くしているため,先端を鋭利にしにくい.
 d)ステンレス包丁は,鉄包丁よりも,(意図的に)硬度を低くしているため,先端の鋭利さを維持しにくい.
 
 では,順に,検討してみます.

a)ステンレス包丁は,硬度は鉄包丁と同等だが,先端を鋭利にしにくい.
 これは,ステンレス鋼と炭素鋼の,研削性(研ぎやすさ)に,起因すると思われます.

 炭素鋼およびステンレス鋼において,硬さを得る機構として,次のようなものがあります.

●炭素鋼
 ・マルテンサイト変態による,原子の並びの欠陥(転位)の導入
 ・鉄原子間に炭素が侵入することによる,原子の並びのゆがみ
 ・鉄の炭化物(Fe3C)の析出による,塑性変形の阻害
 ・硬度が高い,鉄の炭化物(Fe3C)の析出

●ステンレス鋼
 上述の炭素鋼の場合に加えて,
 ・鉄原子の一部をクロム(Cr)が置換することによる,原子の並びのゆがみ
 ・Crの炭化物(Cr23C6など)の析出による,塑性変形の阻害
 ・硬度が高い,Crの炭化物(Cr23C6など)の析出

 上述のうち,特に鉄やCrの炭化物は,鋼とは混じり合わず,独立した状態で,鋼の中に分散して存在します.そして,これらの炭化物は,いわば砂粒のようなものですから,硬度が非常に高いのが特徴です.具体的には,硬さ(ビッカース硬さ)は以下のような値です[1].
 ・Fe3C:Hv=1340
 ・Cr23C6:Hv=1000
 ・Cr3C2:Hv=1300
 ・Cr7C3:Hv=1450
 ・(参考)鋼(HRC60):Hv≒700
[1]須藤;機械材料学,コロナ社,(1985)

 つまり,鋼の中に,部分的に,倍くらい硬い粒子が分散している,という状態になっています.そして,この粒子の大きさや形状は,焼入れ焼き戻しはもちろん,焼入れ前の熱処理の条件によって,変化します.

 包丁を研ぐときに,もし,ところどころ硬い粒子があると,次のような問題が生じそうです.
 ・硬い粒子が邪魔をして,硬い粒子の周囲を正しい形状に成形できない.
 ・硬い粒子が脱落して,凹部ができてしまう.
 ・硬い粒子が刃先に位置すると,刃先を粒子のサイズより鋭利にできない.
 このため,刃物に用いる鋼材では,成分だけでなく,炭化物のサイズまで,厳しく規定しているものがあるようです.文献[2]によると,炭化物のサイズ(直径)は以下のレベルだそうです.
 ・Sandvikステンレス鋼19C27:最大40ミクロン
 ・Sandvikステンレス鋼12C27:最大2ミクロン,平均0.5ミクロン
[2]Sandvik;Products-knife steel
 http://www.sandvik.com
 
 刃の先端の半径は,0.5ミクロンとも言われています[3].40ミクロンもの大きさの異物があったら,うまく研げるわけがありません.
[3]井上;理美容鋏の切断特性と切れ味の定量的評価に関する研究,早大博士論文,(2006)
 http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/handle/2065/5343

 ステンレス鋼では,炭素鋼の場合の鉄炭化物に加えて,Cr炭化物が加わります.このため,ステンレス鋼では,炭素鋼よりも,大きな炭化物が生成する可能性が高い,と推察されます.このような大きな炭化物があると,「ステンレス包丁は,硬度は鉄包丁と同等だが,先端を鋭利にしにくい」,という結果につながると,考えられます.


b)ステンレス包丁は,硬度は鉄包丁と同等だが,先端の鋭利さを維持しにくい.
 a)と同様に,炭化物が関係していると思われます.
 すなわち,使用中に,炭化物が鋼から脱落すると,その部分に凹部ができてしまいます.この結果,「ステンレス包丁は,硬度は鉄包丁と同等だが,先端の鋭利さを維持しにくい」,ということが起こり得ます.


c)ステンレス包丁は,鉄包丁よりも,(意図的に)硬度を低くしているため,先端を鋭利にしにくい.
d)ステンレス包丁は,鉄包丁よりも,(意図的に)硬度を低くしているため,先端の鋭利さを維持しにくい.
 これらは,一見,解せません.硬度が必要な刃物で,なぜ,わざわざ硬度を下げるのでしょうか.

 硬度を下げる理由として,最も大きいと思われるのは,「ステンレス鋼の耐食性の低下を防ぐ」ことです.
 ステンレス鋼の耐食性は,炭素量の多いものほど劣ると,一般的に言われています.例えば,文献[4]では,5%NaCl水溶液(塩水)に浸漬したときの,腐食の程度(質量の変化)が,比較されています.
 ・SUS440C (1wt%C,最高硬度=HRC61)  …約12mg/m^2・hr
 ・SUS420J2 (0.3wt%C,最高硬度=HRC57) …約6mg/m^2・hr
[4]SI Techno;ステンレスの耐食性
 http://www.silicolloy.co.jp/

 SUS440Cは,JISのステンレス鋼で,硬度が最高のものですが,「錆びやすいステンレス」としても有名です.炭素量が多いと錆びやすい理由は,以下のように推察されます.
 ステンレス鋼では,材料表面に錆びにくい膜(不動態膜)を作るために,Crが添加されている.しかし,炭素量が多いと,Crは炭素と結合して,Cr炭化物を作りやすい.不動態膜は,Crの酸化物や水酸化物なので,既に炭素と結合したCrは,不動態膜を作れない.よって,不動態膜を作ることのできるCrの量が少なくなり,耐食性が低下する.
 耐食性を向上するためには,炭素を減らすのが効果的です.しかし,前回の考察から,炭素量が減るほど,ステンレス鋼の硬度は下がります.つまり,耐食性を求めるためには,硬度を犠牲にする必要があります.

 耐食性と硬度のバランスを,どこにとるかは,包丁の設計者の意図によります.しかし,巷で「ステンレス鋼の包丁は軟らかい」という意見が多いところをみると,硬度を多少犠牲にした材料選定が,多いのかもしれません.
 硬度が低ければ,先端は変形しやすくなります.このため,砥いで鋭利な刃先を作るのは困難になりそうです(研ぐ最中に曲がったり,凹んだりしやすい).このため,「ステンレス包丁は,鉄包丁よりも,(意図的に)硬度を低くしているため,先端を鋭利にしにくい」,となります.
 また,硬度が低いと,使用中に先端が変形しやすくなります.すなわち, 「ステンレス包丁は,鉄包丁よりも,(意図的に)硬度を低くしているため,先端の鋭利さを維持しにくい」,ことが起こります.

 ところで,少ない炭素量で硬度を上げるためには,モリブデン(Mo)やバナジウム(V)などの,炭化物を作りやすい元素を入れる,という手もあります.この方法だと,材料の硬さは上がるのですが,炭化物のサイズを制御しないと,a)やb)で述べたのと同様の問題が起こりそうです.

 なお,最近は,炭素の一部を窒素(N)で置換することで,耐食性を保ちながら硬度を上げた材料も,開発されつつあるようです[5].こうした新材料が,包丁に使われる日も,遠くないかもしれません.
[5]寺岡ほか;高耐食洋食器刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼NSSC420J1Mの開発,新日鉄技報,389号,(2009)

(補足)2011/5/31
 以上,ステンレス鋼の弱点を述べました.しかし,ステンレス鋼は,「錆に強い」という点で,炭素鋼をしのぎます.したがって,上述の弱点を克服できれば,ステンレス鋼の包丁は,すばらしいものになると思われます.私の場合,包丁の手入れはしない(例えば,使用後には絶対に拭かない)ことが前提ですので,より高機能なステンレス鋼の開発に,期待したいところです.

(補足2)2012/4/7
 炭素量を増すと、耐食性が劣ると書きました。しかし、炭素量の多いステンレス鋼(VG10、1%C)を実際に使ってみると、思ったほどは錆びません。実用上は、問題ないレベルと思います。ただ、炭素量の少ないステンレス鋼よりは、やはり錆びやすいようです。実際、手入れを怠ったら(洗わずに放置したら)、錆が発生してしまいました。詳しくは、こちらの記事に書きました。



【今回の結論】
 包丁に用いられるステンレス鋼が,炭素鋼より劣る点として,以下が挙げられます.
 ・大サイズの炭化物が形成されやすく,刃先を成形する際の障害になりやすい.
 ・耐食性を確保するためには,炭素量を制限して,硬さを犠牲にせざるを得ない.


【バックナンバー】
包丁編・前の記事:ステンレス包丁と鉄包丁の硬度
包丁編・次の記事:「いい包丁」の選び方

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