今日のおじさん、なに食べました? (仮)

妻の料理と、おじさんの毎日の記録です。ほんのり工学テイスト。

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研がなくてよい包丁がある?~自己再生する刃の秘密
【今日の料理】 2011/11/7 夕食
 つかまり立ちが大好きな娘(8.8ヶ月)ですが,バランスを崩して,アゴを強打してしまいました.最近は,かなり足腰がしっかりしてきたので,これだけ派手に転ぶのは,久しぶりです.さすがに痛かったのか,びっくりしたのか,しばらくギャン泣きです.口の中を切ってしまい,血が流れ出てきてしまいました.
 数ヶ月前ならば,私も妻も大騒ぎだったでしょう.しかし,最近は慣れたもので,「我慢しなさい」と言って,ちょっとだけ抱っこして,終わりです.我が家の子育ては,だんだんと雑になってきました(ネグレクト育児にならないよう,頑張ります).
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★米飯

★みそ汁,ほうれん草・わかめ・じゃがいも

★ブリ照り焼き
 1切れ=99円の,ブリです.焼く前に,少し取り分けてレンジでチンして,娘にも与えてみました.

★カブ煮物
 昨晩のカブの煮物です.味が濃かったので,豆腐を加えました.

★ラフランス
 娘の離乳食用に.ちょうど良く追熟していました.

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【今日の料理工学】 研がなくてよい包丁がある?~自己再生する刃の秘密
 本ブログでは,「包丁」について,たびたび取り上げています(過去の記事の一覧は,こちら).今回も,包丁の話題です.

 包丁のネックのひとつは,「研ぐ必要がある」ことだと思います.我が家の場合,2~3ヶ月に1回は,包丁を研がなければなりません.(以前,2000円の包丁を使っていた頃は,1ヶ月に1回は研いでいました.)


★「刃が自己再生する包丁」とは?
 研がなくて良い包丁はないものか,と探していたところ,興味深い商品が見つかりました.「穂岐山刃物(ほきやまはもの)」の「SAKON・PLUS(サコンプラス,SAKON+)」です.

 商品説明[1]によれば,「使用する度に超硬質粒子が刃先に現れ続け,ミクロン単位の極微細なノコギリ状の刃が自己再生します.」とのことです.これによって,「従来の刃物にはない驚異的な切れ味と刃持ちの良さを実現することに成功」した,とあります.(「」内は,引用)
[1]穂岐山刃物;包丁‐SAKON+
http://www.hokiyama.com/ja/index.html
 「刃が自己再生」というフレーズに,興味をひかれました.いったい,どのようなメカニズムになっているのでしょうか.


★「MSCoating」による硬質膜
 この包丁は,普通の刃物用ステンレス鋼の刃の表面に,「Vee-Tech処理」を施したもののようです[1].Vee-Tech処理とは,表面処理の一種のようですが,どのようなものなのでしょう.

 文献[2]に,詳細が載っていました.これによると,Vee-Tech処理は,「Vivid Edge Technology」に由来します.もともとは,「IHIと三菱電機が,航空機エンジンのタービン翼など部品の耐久性および耐摩耗性に優れた高品質の膜を形成するために開発されたコーティング技術」[2]とのことです.IHIでは,この表面処理を「マイクロスパークコーティング」または「MSCoating(MSコーティング)」と呼んでいるそうです.
[2]IHI;航空機エンジン技術でトマトを極薄スライス,IHI技報,v.51,n.3,(2011)
http://www.ihi.co.jp/var/ezwebin_site/storage/original/application/548947d10f391c5dd92a136b3e1c43b8.pdf
 MScoatingの原理は,文献[3]にありました.図1は,文献[3]を元に,当方が作成した説明用の図です.
[3]落合他;部品の長寿命化と部品の機能回復に役立つMSCoating技術,IHI技法,v.49,n.4,(2009)
http://www.ihi.co.jp/var/ezwebin_site/storage/original/application/55965e450a15f5d17a188327905e644e.pdf
<図1> 
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 「コーティングブロック」は,母材表面にコーティングさせたい材料です.金属やセラミックスの粉末を,固めたもののようです.次のようにして,表面処理が行われます.
)コーティングブロックと母材を,絶縁油の中に入れる.
)コーティングブロック・母材間に,パルス状の電圧をかける.
)すると,毎秒約1万回の放電(スパーク)が始まる.
)放電に伴って,コーティングブロックの材料が,母材に移動する.
)母材表面で,両材料が溶融し,接合される.

 セラミックのような高硬度材料の膜を,母材表面に形成する方法としては,「PVD(Physical Vapor Deposition)」や「CVD(Chemical Vapor Deposition)」などの,「蒸着法」が有名です[4].しかし,このMSCoatingは,むしろ「溶接」に近い方法のように思えます.また,装置組みは,放電加工に似ていると感じます.
[4]仁平ほか;はじめての表面処理技術,工業調査会,(2001)
 蒸着法による膜では,母材との密着性が制限され,「はくり」が問題になる場合があります.これに対して,MSCoatingは,母材と溶融して接合するので,耐はくり性が高いという特徴があります.

 このMSCoatを包丁に適用したものを,特にVee-Tech処理と呼んでいるようです.
 コーティングの材質は,「超硬質粒子」としているだけで,明示されていません.文献[2][3][4]の記載および製品の色味(写真のみ確認)から推察すると,TiC(チタンカーバイト,炭化チタン)あたりかなあ,と思われます.膜厚さは,5~30μmという記載がありました[4].膜は,下図2のような,「傾斜層」になっているようです.すなわち,表面に近づくほど,超硬質粒子の密度が濃くなっていきます.また,文献[1][2][4]からの推察ですが,コーティングは,刃物の片面だけに施されているようです.
[4]IHIほか;特開2008-264116,刃物
<図2>
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★刃の自己再生とは
 では,この「Vee-Tech処理」を行うと,どうして刃が自己再生するのでしょうか.当方,完全に理解できたわけではありませんが,文献[2]の記載を参考にして,説明を試みます.
 「切れ味の良い包丁」には,次の2つの要素が必要なようです(図3).
 ・刃先断面で見て,刃先の先端が鋭利である(先端Rが小さい).
 ・刃先側面で見て,細かなギザギザ(ノコ刃)がある[5].
[5]藤寅工業;ホームページ
 http://tojiro.net/jp/guide/part_blade.html
<図3>
20111107z3.jpg
 包丁を長く使っていると,刃先が摩耗したり,破損(折損)したりします.摩耗や破損した部分では,図4のように,刃先の先端が鈍くなり,ノコ刃もなくなってしまいます.
<図4>
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 以上は,普通の包丁(鋼材の包丁)の場合でした.Vee-Tech処理を行った場合を,考えてみます.
 まず,使用前の状態を,図5に示します.緑色の部分が,硬質材のコーティングです.コーティングは,刃の片面だけにあるとしました.先端は鋭利で,ノコ刃があります.
<図5>
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 注目する点は,コーティングの表面には,微小な凹部ができることです.この凹部は,放電によって形成される「落雷の跡」とのことです[2].凹部の寸法は,直径50μm以下,深さ10μm程度だそうです.

 包丁を長く使って,摩耗が進むと,図6のようになりそうです.
<図6>
20111107z6.jpg
 まず,断面形状を見ます.コーティング表面は摩耗しにくく,母材に向かうにしたがって,摩耗しやすくなります.このため,図のように,母材は摩耗して,コーティング部分が残ります.したがって,刃先は非対称な形状になります.これによって,刃先の鋭利さが,ある程度保たれそうです.
 次に,側面の形状を見ます.先端が摩耗した後でも,表面の凹部によって,新しくノコ刃が形成されています.これが,商品説明[1]にある「ノコギリ状の刃が自己再生します」ということに,違いありません.
 なお,商品説明には,「使用する度に超硬質粒子が刃先に現れ続け」とあります.これは,母材が摩耗して,コーティングだけが残ることを言っているのだと思われます.もし,母材が摩耗しないと,コーティング表面に凹部があっても,母材が裏側に残ってしまって,ノコ刃ができないと思われます.


★弱点は
 自己再生するノコ刃というのは,非常に面白いアイデアです.しかし,この自己再生は,刃先の破損モードが「摩耗」でないと,成り立たないような気がします.
 実際の包丁の刃先は,摩耗よりも,折損(刃こぼれ)によって,鋭利さを失うことが,多いような気がします.下図7は,刃先が折損した包丁の実例です(これは,Vee-Techではなく,普通のステンレス包丁です).刃先が,めくれるように折れ曲がっています.
<図7>
20111107z7.jpg
 このような折損は,調理時に,包丁をまな板に「打ちつける」ために生じます.また,魚の骨や,果物の種,野菜に混じった砂などに刃先が当たっても,折損は生じると考えられます.つまり,折損は,通常の使用で,頻繁に発生するものと考えられます.

 では,刃先が折損した場合には,Vee-Tech処理した包丁は,どうなるでしょうか.
 Vee-Tech処理の硬質材は,セラミックだと推定されます.セラミックは,硬度が高いことで知られています.しかし,セラミックの強度(引張強度や曲げ強度)は,刃物鋼の強度と,同等以下です.例えば,
 ・表面硬さHRC60の鋼材の引張強度:約1800MPa…[6]
 ・ジルコニアの曲げ強度     :約1500MPa…京セラ,Z-701N[7]
 ※ジルコニアは,様々なセラミック中で,最大級の強度を持つ.
[6]畑村ほか;続・実際の設計,日刊工業,(1992)
[7]京セラ;ファインセラミックス-材料特性表
 http://www.kyocera.co.jp/prdct/fc/index.html
 このため,「折損」に関しては,Vee-Tech処理をしても,有利にはなりません.すなわち,刃先が折損するときは,図8のように,コーティングが,母材もろとも折損すると考えられます.
<図8>
20111107z8.jpg
 このような折損が生じると,母材が邪魔をしてしまって,コーティング表面の凹部は,ノコ刃になれそうにありません.また,断面形状を見ると,刃先は完全に鈍くなってしまっています.これでは,Vee-Tech処理のない包丁(図4)と,まったく変わりません.

 以上のように,刃先の破損形態が「折損」であると,Vee-Tech処理は,十分な効果を上げられそうにありません.実際の包丁では,折損は頻繁に生じる破損形態と思われますから,無視できません.つまり,Vee-Tech処理の「自己再生する刃」は,十分に機能しない場合も多いのではないか,と懸念されます.

 とはいえ,「自己再生する刃」というのは面白く,一度使ってみたくなる包丁ではあります.


 次回は,包丁の切れ味を定量評価する「CATRA試験」について考察します.


【今回の結論】
 「自己再生する刃」の正体は,微小な凹部を持つ硬質コーティングでした.刃先が摩耗しても,凹部が新しい刃になるので,切れ味の低下が防げそうです.
 ただ,刃先の折損に対しては,切れ味の低下が防げないかもしれません.刃先の折損は,頻繁に起きる現象と考えられますので,「自己再生する刃」の機能は,限定的かもしれません.


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