今日のおじさん、なに食べました? (仮)

妻の料理と、おじさんの毎日の記録です。ほんのり工学テイスト。

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「いい包丁」が長く切れる理由~摩耗と刃こぼれ
【今日の料理】 2011/1/18 夕食
 今日は,家の物品整理をしました.昨年末の大掃除で,不要品を捨てていなかったためです.熊谷に暮らして,丸2年ですが,時間とともに物品が増えて,物の置き場がなくなってしまいました.
 今日は,長い間着ていない服などを処分することに決めました.捨ててしまうのは,もったいない気もしますが,スペースを有効に活用できるようになるので,とても有益なことだと思います.
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★米飯

★タラ鍋
 タラ1匹を鍋用にブツ切りにしたものが売っていたので,これを使いました.1尾=398円でした.具は,タラ・白菜・昆布・シメジ・エノキ・マロニーちゃん・豆腐・春菊です.仕上げに味噌を加えました.
 味噌の量が少なく,あまり味のしない仕上がりになってしまいました.キムチを入れたりして,味を調整しながら食べました.タラは新鮮なのか,臭みがなく,食べやすかったです.

★キムチ

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【今日の料理工学】「いい包丁」が長く切れる理由~摩耗と刃こぼれ
 前回は,「いい包丁」を半年間使用した状況を,まとめました.その結果,いい包丁は,安価な(2000円)包丁に比べて,2~3倍,切れ味が長持ちしそうなことが分かりました.

 今日は,いい包丁が,切れ味が長持ちする(長切れする)理由を,考察してみます.


★硬度や強度は,1割しか違わない 
 「いい包丁」と「2000円包丁」について,材料の「硬度」を調べてみました.2000円包丁のほうは,鋼材の種類がはっきりしませんので,類似鋼材と思われる「SUS420J2」の硬度を用いました.硬度(焼入れ焼戻し)は,次の通りです.
 ・いい包丁 :HRC57…[1]
 ・2000円包丁:HRC53…[2]
 鋼材の強度は,硬度から換算することができます[3].次のようになります.
 ・いい包丁 :1780[MPa]
 ・2000円包丁:1660[MPa]
[1]武生特殊鋼材;オリジナル刃物鋼
 http://www.e-tokko.com/original_list.htm
[2]JFEスチール;JFEの刃物用ステンレス鋼,Cat.No.G1J-017-00
 http://www.jfe-steel.co.jp  
[3]畑村編;続・実際の設計,日刊工業新聞社,(1992)

 以上から,「いい包丁」と「2000円包丁」を比較すると,強度の比および硬度の比は,次の通りです.
 ・強度の比: いい包丁:2000円包丁=1.07倍
 ・硬度の比: いい包丁:2000円包丁=1.07倍
 すなわち,両者の強度や硬度には,1割程度の差しかありません.この程度の差しかないのに,なぜ,切れ味の持続性には2~3倍の違いが現れるのでしょうか.


★「摩耗」で説明できるか?
 包丁の切れ味が低下する理由は,以前に考察しました(→こちら).このときの結果によると,主に次のような理由で,包丁の刃先の形状がくずれることが,切れ味が低下する理由と考えられます.
 ・刃先の「摩耗」.
 ・刃先の「刃こぼれ」(塑性変形,破断など).

 まず,摩耗について考えてみます.
 「いい包丁」と,「2000円包丁」の刀身の材質は,次の通りです.
 ・いい包丁 :高硬度ステンレス鋼「V金10号(VG-10)」
 ・2000円包丁:モリブデン・バナジウム添加ステンレス鋼


 摩耗には,次の2つの形態が知られています.
 ・凝着摩耗   :2つの材料の付着の後,一方が破断する摩耗.消しゴムと紙が,摺り減るイメージ(図1上).
 ・アブレシブ摩耗:硬い物質が,材料を削りとる摩耗.やすりで削り落とすイメージ(図1下).
<図1>
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 包丁で食材を切断する場合には,主に「凝着摩耗」が生じていると思われます.凝着摩耗では,硬い物質(包丁)と,軟らかい物質(食材・まな板)とが摩擦する場合でも,硬い物質が徐々に摩耗します.
 一方の「アブレシブ摩耗」は,硬い物質によって,軟らかい物質が削られるものです.この形態では,硬い物質は摩耗しません(もし摩耗するならば,それは凝着摩耗による).包丁の使用条件では,砂粒のついた食材を切ったり,ガラス製のまな板を使ったりしたときに,アブレシブ摩耗が生じるかもしれません.
 
 それぞれの摩耗形態で,摩耗量には,次の特徴があります.
 ・凝着摩耗   :摩耗量は,摩耗する材料の「強度」に,ほぼ比例する.
 ・アブレシブ摩耗:摩耗量は,摩耗する材料の「硬度」に,ほぼ比例する.
(強度と硬度は,似たようなものですが,ざっくり言って,強度は材料の比較的広い領域(マクロ)を代表する性質,硬度は比較的狭い領域(ミクロ)を代表する性質です.)

 「いい包丁」と「2000円包丁」を比較すると,強度の比および硬度の比は,次の通りです.
 ・強度の比: いい包丁:2000円包丁=1.07倍
 ・硬度の比: いい包丁:2000円包丁=1.07倍
 すなわち,両者の強度や硬度には,1割程度の差しかありません.したがって,両者の摩耗量は,1割程度しか差がないと考えるのが自然です.このことから,両者の切れ味の持続長さも,1割程度しか違わないと言えそうです.

 ところが,実際の包丁では,いい包丁は,2000円包丁の約2~3倍の間,切れ味が持続します.これは,予測に反します.

 以上のように,切れ味の低下が,主に「摩耗」によるものだとすると,「いい包丁」の切れ味が長持ちする理由を,うまく説明できません.


★強度と「刃こぼれ」の確率
 摩耗による説明は,うまくいきそうにありません.そこで,「刃こぼれ」について,考えてみます.

 下図2のように,包丁の刃先は,拡大すると,波打ったような形状になっています.いわゆる「ノコ刃」です.(詳しくは,過去の記事を参照.)
<図2>
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 下図3は,包丁の刃先と食材(または,まな板)の接触部分を,拡大したものです.包丁のノコ刃の寸法形状は,場所によってまちまちです.また,食材にも,形状のゆがみがあります.このため,包丁と食材の接触箇所は,何箇所かに制限されます.
<図3>
z20120118z3.jpg
 包丁と食材の接触箇所を拡大すると,下図4のようになります.
<図4>
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 この接触によって,次の包丁の刃先には,次のような応力が作用します.
 ・刃先と食材の接触部の,接触応力.
 ・刃の根元部の,曲げ応力.
 これらの応力が,材料の強度を越えて大きくなると,刃先が塑性変形してつぶれたり,刃の根元が曲がったり折れたりします.これが,「刃こぼれ」です.

 ひとつの刃先に注目したとしても,応力の大きさは,使用条件によって,バラつきます.同じ人が同じ食材を切断したとしても,つぎのようなバラツキが生じます.
 ・包丁を押し込む力のバラツキ
 ・包丁を押し込む角度のバラツキ
 ・食材やまな板の形状のバラツキ
 ・食材の強度のバラツキ
 こうしたバラツキによって,刃先に作用する力の大きさや向きがバラつき,刃先や刃の根元に作用する応力にも,バラつきが生じます.

 複数回,同じ人が同じ食材を切断したときの,応力のバラつきの分布は,下図5のようになりそうに思えます.この図は「確率密度分布図」で,横軸は応力,縦軸は確率密度です.
<図5>
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 図5は,平均応力(グラフの山の頂上に相当)を中心に,大小に応力がバラつくような分布を,示しています.なお,この図は正規分布で作図しましたが,実際の分布が正規分布かどうかは,不明です.

 このような応力のバラツキを仮定すると,刃こぼれする確率を求めることができます.例えば,刃の材質の強度をσ0[MPa]とします.そうすると,下図6の斜線で示した面積S0が,応力が強度を超える確率になります.すなわち,刃こぼれする確率は,S0です.
<図6>
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 この考え方によれば,刃こぼれするまでの期間(使用回数)は,作用する応力が強度を超える「確率」によって,定まります.長期間,包丁を使用するほど,刃こぼれが生じる可能性が高まります.例えば,1回の切断で刃こぼれする確率S0=1/10000だとしても,1000回の切断を繰り返せば,約1/10の確率で,刃こぼれが生じます(正確には,1-(9999/10000)^1000=0.095の確率).

 そうすると,「いい包丁」では,「2000円包丁」に比べて,刃こぼれが生じる確率が1/2~1/3になっているのかもしれません.そのようなことが,ありえるかどうか,検証してみます.

 下図7のような分布を仮定してみます.σ1,σ2は,「2000円包丁」および「いい包丁」の材料の強度で,以下の値です.
 ・σ1=1660[MPa]
 ・σ2=1780[MPa]
<図7>
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 それぞれの包丁に対して,刃の刃こぼれが生じる確率は,面積S1およびS2で与えられます.この図7では,S1はS2の約2倍になっています.すなわち,強度がσ1の包丁は,強度がσ2の包丁に比べて,刃こぼれが生じる可能性が2倍です.
 応力のバラツキが図7のようになっていれば,「いい包丁」の刃が「2000円包丁」の刃に比べて,2倍切れ味が長持ちしても,不思議ではなさそうです.

 さて,ここまでは,たくさんあるノコ刃のうち,1個の刃だけに注目していました.実際には,1個の刃が刃こぼれしただけでは,切れ味の低下を感じないと思います.所定数のノコ刃,たとえば全ノコ刃のうちの何割とか,が刃こぼれすると,切れ味の低下を感じるようになるのだと思います.
 個々の刃が2倍長持ちすれば,所定数の刃がダメになるまでの期間も,2倍になりそうです.したがって,個々の刃の切れ味の持続期間は,そのまま,包丁全体の切れ味の持続期間を示すと言ってよいと考えられます.


 以上のように,少しの(約1割の)強度の違いでも,切れ味の持続期間に,大きな(数倍の)影響を与える可能性がありそうです.

 切れ味の持続性を決定付けるのは,「摩耗」でなく,「刃こぼれ」と考えるべきと思います.


【今回の結論】
 「いい包丁」と「2000円包丁」では,硬度や強度は約1割しか違いませんが,切れ味の持続期間は2~3倍違います.
 この理由は,「摩耗」では,うまく説明できません.
 少しの強度の差でも,「刃こぼれ」が生じる確率が大きく変わることが,切れ味の持続期間の差の理由と思われます.


妻には,「あなたの包丁話は,つまらない.」と言われています.
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ファインセラミックスの包丁
 なかなかめんどくさいブログを、ご苦労様です。めんどくさついでにファインセラミックスの包丁についても考察してください。(過去の記事にあれば、あるよということで結構です)
 なお、私のブログは、材料工学系の方がみている可能性もあるので、リンクさせていただきます。同好の士とつながると良いですね。
dadebeso | URL | 2012/01/20/Fri 19:37 [編集]
> dadebeso さん
 はい.めんどくさいです.

 ちょうど,セラミックの包丁についても考えているところでした.この機会なので,記事にしました.
http://lglink.blog81.fc2.com/blog-entry-439.html

 また,セラミックと鋼材の複合包丁については,以下の記事があります.
http://lglink.blog81.fc2.com/blog-entry-355.html
マツジョン | URL | 2012/01/21/Sat 00:24 [編集]
がんばれー!!w

面白いです。
「要するにこういうこと。」という比喩があるとわかりやすくてもっと良いかもしれません。
BRO | URL | 2012/07/24/Tue 22:49 [編集]
>BRO さん
 ありがとうございます。比喩は、難しいですが、こんなのはどうでしょうか。

 野球で、「普通のバット」は145km/h以上の球を打つと折れる。「いいバット」は、150km/h以上の球で折れるとします。両者の耐えられる球速の差は5km/hと小さいので、バットの強度としては大差ないと思われます。ヒザでバットを折ろうとすれば、どちらも同じくらいの力で折れるでしょう。
 さて、プロ野球の場合、145km/h以上の球を投げる投手が少なくありません。このため、「普通のバット」では、10試合に1回くらい折れるでしょう。しかし、150km/h以上の球を投げる投手は、かなり少ないです。このため、「いいバット」は、例えば50試合に1回しか折れません。そうすると、バットの耐用期間としては、5倍くらい違うことになります。
 このように、強度として大差ない品物でも、使用される荷重の(球速の)分布の具合によっては、耐用年数に大きな違いが出ることがあります。包丁でも、同じようなことが起きているのでは、と推察します。

 ところで、同じバットを草野球で使った場合には、145km/hの球に出会う機会は、まずなさそうです。このような状況では、「普通のバット」でも、「いいバット」でも、耐用期間に差は出ません。包丁でも、使用時の荷重が常に小さければ(例えば皮むき専用)、硬度や強度による耐用期間の差を、感じないかもしれません。

 強度の僅かな違いが、耐用期間の差にどのくらい現れるかは、使い方(使用時の荷重の分布)しだい、といったところでしょうか。

 野球を知らないとイメージしにくい比喩で、ごめんなさい。
マツジョン | URL | 2012/07/25/Wed 22:13 [編集]
なるほど~~。
なんとなくわかったつもりで読んでいたけど、例示してもらって始めて理解できました(笑)
BRO | URL | 2012/07/27/Fri 11:34 [編集]
> BRO さん
 はい。ありがとうございます。
マツジョン | URL | 2012/07/28/Sat 22:43 [編集]



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