今日のおじさん、なに食べました? (仮)

妻の料理と、おじさんの毎日の記録です。ほんのり工学テイスト。

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煮物は冷めるときに味が染みる?~温度と染みる速度の関係
【今日の料理】 2011/5/29 夕食
 今日は日曜日.私は,お休みを頂き,ひとり大宮まで出かけてきました.「いい包丁」を探すのが,目的です.
 東急ハンズ,ロフト,そごう,高島屋と巡りましたが,どこも似たラインナップでした.なかなか,ピッタリの包丁が見つかりません.いよいよ,通信販売の出番かもしれません.できれば,現物を確認してから求めたいのですが.
 今日の夕食は,妻の料理です.毎度ながら,ありがとう,妻.


★米飯

★すまし汁,もやし・しめじ

★レタス豚肉卵炒め
 妻の「48の得意料理」のひとつ,「炒め物」が炸裂しました.オイスターソースと,味王(ウェイユー)で,味付け.オイスターソースが少ししか残っておらず,うっすらオイスター味です.

★お助け惣菜
・納豆,おかか入り
・韓国のり

【今日の料理工学】 煮物は冷めるときに味が染みる?~温度と染みる速度の関係
 前回は,「味の染み」を,拡散方程式によって,数値計算できるようにしました.この計算で,重要なパラメータが,拡散係数Dです.拡散係数が大きいほど,染みる速度は速くなります.


★実際の拡散係数の値は,どれくらい?
 実際の調理では,拡散係数は,どの程度の値をとるのでしょうか.前々回の実験結果を利用して,調べてみたいと思います.この実験では,以下の結果を得ています.
 ・温度20℃(室温):10分後の染み深さ≒1~2mm
 ・温度100℃(普通鍋):10分後の染み深さ≒3~4mm
 ・温度120℃(圧力鍋):10分後の染み深さ≒3~4mm

 数値計算手法を用いた計算結果が,上の実験結果と一致するように,拡散係数Dを試行錯誤で探しました.この際,以下のように,実験結果を数値化しました.(まあ,これくらいだろう,という近似です.)
 ・温度20℃:10分後に,深さ=2mmの位置で,濃度=調味液濃度の0.5倍
 ・温度100℃:10分後に,深さ=4mmの位置で,濃度=調味液濃度の0.5倍
 ・温度120℃:10分後に,深さ=4mmの位置で,濃度=調味液濃度の0.5倍

 この結果,拡散係数Dとして,以下の値が得られました.
 ・温度20℃:D=6×10^-9[m^2/s]
 ・温度100℃:D=25×10^-9[m^2/s]
 ・温度120℃:D=25×10^-9[m^2/s]
 温度20℃→120℃で,拡散係数は,約4倍になっています.拡散係数が4倍になると,任意の時間t[s]での,染みの深さは,2倍になります.つまり,時間t[s]における染みの深さは,√Dに比例すると考えられます.
 
 さて,拡散係数Dには,温度依存性があります.この温度依存性は,「アレニウスの式」で記述できるそうです[1].
[1]小竹;調理と塩の科学,ソルトサイエンスシンポジウム講演資料,(2010)
 http://www.saltscience.or.jp/event/saltscience-simposium/simpo-index.htm

 アレニウスの式は,「材料の煮え(材料の破壊)」の速度依存性のときにも,出てきました.これは,次式1で表されます.
<式1>
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 ここで,
 A:頻度因子(調味液と素材で決まる)
 Q:活性化エネルギ(調味液と素材で決まる)
 R:気体定数
 T:絶対温度[K]
 ※AとQには,それらしい名前がついていますが,単なる定数と考えたほうがよいかもしれません.

 式1の係数を求めるために,横軸に温度の逆数(1/T[K^-1]),縦軸に拡散係数Dの対数をとり,グラフを作成しました.結果を下図1に示します.
<図1>
z20110529z1.jpg
 この結果から,最小二乗近似によって,定数AとQ/Rが,次のように求められました.
 ・A=2.4×10^-6[m^2/s]
 ・Q/R=1700[K]

 では,拡散係数の温度依存性を調べてみます.温度Tのときの拡散係数をD,温度T+ΔTのときの拡散係数をD’とします.式1より,次式2を得ます.
<式2>
z20110529s2.jpg
 T=100[℃]=373[K],ΔT=20[℃]とすると,
 ln(D’/D)=1700[K]×20[K]÷(373[K])^2=0.244
 ∴D’/D=e^0.244=1.27≒1.3
 となり,拡散係数は,100℃→120℃で,1.3倍になります.そして,前述の通り,時間t[s]における染みの深さは,√Dに比例すると考えられます.したがって,染みの深さは,100℃→120℃で,√1.27≒1.1倍となります.

 このように,「味の染み」の速さを支配する拡散係数は,温度依存性があるものの,その依存性は低いことが,分かります.圧力鍋を使用しても,普通鍋に対して温度は約20℃アップに過ぎません.したがって,味の染みを早める効果は,ほとんど期待できません.
 逆に,材料が柔らかくなったら,あとは火を止めて放置しても,味の染み込む速度は,あまり低下しないと考えられます(ただし,材料を柔らかくしておかないと,味の染み込みは遅い).このような性質が,「煮物は冷えるときに味が染みる」という言葉を,生み出したのかもしれません.正しくは,「煮物は冷えるときに味が染みる」なのだと思われます.

 一日置いて味が染みた煮物は,おいしいものです.


(補足)
 文献[1]によると,食塩の自己拡散係数(食塩水中を食塩が移動するときの拡散係数)は,25℃で1.5×10^-9[m^2/s]とのことです.本ブログの大根の実験では,次の理由から,拡散係数は,この値より小さくなければなりません.
 a)調味液の分子は,水中でなく,大根の中を移動しなければならない.
 b)食塩でなく,色素(茶色)で,染み深さを判断している.色素の分子量>食塩の分子量と考えられる[2].一般に,分子量が大きいほど,拡散係数は小さくなる[1].
 しかし,本実験では,20℃で拡散係数が6×10^-9[m^2/s]と,文献[1]の食塩の値よりも,大きくなっています.とはいえ,きわめて簡単な実験のわりには,桁数が一致しています.ですので,当方としては,「合わない」のではなく,「なかなか良い一致」と考えています.

[2]宮島醤油HP;醤油の科学
 http://www.miyajima-soy.co.jp/

(補足2)
 今回の実験では,大根を下ゆで(材料の破壊)してから,味の染みを比較しました.しかし,実際の煮物では,材料の破壊と,味の染みが,同時並行で進むと考えられます.材料の破壊が進むほど,材料の空隙が増すので,染みの速度は速まると思われます.
 圧力鍋では,普通鍋に比べて,材料の破壊速度が約5倍になります.したがって,温度の影響でなく,材料の破壊によって,味の染みは,だいぶ速くなると思われます.
 ただ,当方の経験からすると,「しみしみ大根」を作るためには,約5分の加圧調理だけでは不足です.加圧しすぎると,大根の歯ごたえが消えてしまいます.加圧後,火から下ろして,一晩放置するのが,「しみしみ大根」を作る最もよい方法だと思っています.

(補足3) 2011/6/3
 「時間t[s]における染みの深さは,√Dに比例すると考えられます」と記載しました.しかし,これは,表層付近に限られるようです.十分深い部分では,染みの深さはDに比例するようです.

【今回の結論】
 「味の染み」を決定づける拡散係数は,温度依存性が低いと考えられます.このため,温度を多少上げ下げしても,味の染みの速さは,大して変化しないと言えます.
 このような性質から,煮物では,冷める時にも,冷めた後でも,味が染みていくのだと考えられます.


【バックナンバー】
煮物編・前の記事:染みの原理
煮物編・次の記事:味付けの順番

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煮ている素材内部の水分の膨張・収縮による煮汁の引込みについてはどうお考えでしょうか。
ぼっちょ | URL | 2017/02/28/Tue 18:39 [編集]
> ぼっちょ さん
 なるほど! 水分の収縮による引込み、というのも、大いに関係ありそうですね。いわゆる「減圧鍋」も、この種の原理なのでしょうか?
 興味深いコメント、ありがとうございます。
マツジョン | URL | 2017/03/05/Sun 05:39 [編集]



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